23/06/11(日)19:52:26 星にな... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1686480746709.jpg 23/06/11(日)19:52:26 No.1066489933
星になりたかったのです 絢爛と輝く一番星に
1 23/06/11(日)19:52:48 No.1066490094
その眩い光を見たのは、私がまだ中学生だったころです。 当時の私は、その、あまり明るくなくて。部活動にも所属せず、親しい友人も作れず、学校が終われば一人で学校を去るのが常でした。 それでも時間と体力だけは有り余っていたので、直接家には向かわず、色々な道を探検して暇を潰してから帰るのが私の日常でした。 キヴォトスは広いです。 学区内に限定しても至る所に店店店、一般的なコンビニから、昔懐かしの商店に、最新家電の叩き売りまで。 私はもっぱら冷やかしで、買い食いをする程度でしたが、それでも毎日出歩いても飽きないほど、私たちの街は充実していました。 そんな散策にも慣れたある日、私は少し遠出をしてみようと思い立ちました。 学区の外、私たちとは異なる種族の生徒が過ごす街に繰り出そうと。 深い考えはありませんでした。ただ、ほんの少し来た飽きに、幼い私はストレスを感じたのかもしれません。 いつも通り学校が終わり次第、荷物を手早くまとめて走り出しました。なにせ他の学校の区域です。
2 23/06/11(日)19:53:13 No.1066490256
急がなければ放課後が終わってしまうと思うと、少しの時間も無駄にできません。 走っていることによる興奮からか、未踏の地への期待感なのか、私の心臓は大きく鼓動し、全身に血液を巡らします。 見慣れた景色を横目に私は走って、走って、全力で走ったので、そう時間のたたないうちに、私は足を止めました。 肩を上下させ、息を切らしながらも、私の目が足元に向くことはありませんでした。 そこはまるで別世界でした。 煌びやかなアクセサリー店も、白い羽根を持つ少女たちも、丁重に舗装された石畳作りの道も、神に祈りを捧げる教会も、何もかもありません。 あったのは今にも崩れそうな廃墟、そこに吹き付けられた粗野で巨大なスプレーアート、撒き散らかされたままの弾薬、全てが暴力と破壊を物語っていました。 ゲヘナ学園。 今の私たちの通うトリニティ総合学園と犬猿の仲であるマンモス校。その学区でした。
3 23/06/11(日)19:53:33 No.1066490403
今にして思えば、そこはゲヘナの校区の中でも、たまたま外れにある辺鄙な場所で、さらにトリニティとの文化の違いに、世間知らずの私が大げさにショックを受けただけなのですが、当時の私からしてみれば非日常極まりない場所でした。 それでも、せっかく来たのです。私は深呼吸をして心と身体を落ち着けてから、恐る恐る探検を開始しました。 ゆっくりと手近な廃墟を覗いたり、細い路地裏に入り込んでみたり。最初は慎重に、徐々に大胆に。十数分もすると、私は足取り軽く歩き回り、運動靴から伝わってくる瓦礫の感触を楽しみながら、勝手に建物の中にお邪魔するまでになっていました。 これまでに無いスリルは私を病みつきにし、勇敢な冒険家の気分にしてくれました。 しかし、スリルがあるということは、即ち危険があるということ。 人っ子一人いない自分だけの空間に酔った私は、比較的綺麗で原型の残っている建物を見つけると、玄関のドアを蹴破りながら叫んだのです。 「見つけましたー!!!!!」 などと、高らかに。
4 23/06/11(日)19:53:54 No.1066490564
本当に一人のごっこ遊びのつもりでした。あの時の私は確かに『危険なジャングルで宝を発見した冒険家』だったのです。 しかし、ドアの先には人がいました。 背中に皮膜のある大きな黒い羽根を背負った少女。頭から太いツノを生やした少女。 治安の悪さで有名なゲヘナ学園の生徒であるのは一目で分かりました。 それだけならば、私は『彼女たちのプライベートを邪魔した空気の読めないおのぼりさん』で済む話だったのですが、どうにも間が悪く、彼女たちは何らかの取引をしている最中のようでした。 具体的な品物は…………ごめんなさい、思い出せませんが、確かにスーツケースとお金を用意していて、後ろ暗いものであることは私にも分かりました。 つまるところ私は、『冒険家』でも『おのぼりさん』でもなく、『裏取引を捕らえに来た、何らかの治安維持組織』であると勘違いされて当然の状況だったのです。 一瞬の静寂の後、彼女らが動き出すより僅かに早く私は逃げ出しました。脱兎の如く。 細かい事情は分からなくても、自分の後ろから響いてくる怒号と、真横を通り過ぎる銃弾で、身の危険が迫っていることは瞭然でした。
5 23/06/11(日)19:54:14 No.1066490710
私は何も考えず必死に駆けました。 体力には自信がありましたが、それは疲れず走り続けられるというだけで、足が特別速いわけでも、ましてや初めて来た場所の地理を把握しているわけでもありません。 私は幾度も突き当たりに行き着いては曲がることを余儀なくされ、高い壁を登るのは苦手だったので、行き止まりを見つけては引き返さざるをえませんでした。 そんなことをしていては当然、地の利を知り尽くした地元の者との鬼ごっこに勝てるわけもありません。 しばらくすると、私は建物の中に追い詰められてしまいました。 「はぁ……はぁ……クソ………ちょこまかと逃げ回りやがって………。だがまあ、これで終わりだな」 追っ手は5人ほどいて、全員が武装していました。 私は震えた声で釈明します。 あの時の私は正義に燃える使徒ではなく、無力な一人の学生でした。
6 23/06/11(日)19:54:36 No.1066490879
「あ、あのっ!私!何も見てなくって!」 慣れない大声で主張しますが、返ってきた反応は冷たいものでした。 「ばっちり目があったろ!仮に見てなかったとしても、可能性がある以上逃すわけにはいかねえ」 彼女たちはザッ、と、揃えて私に銃口を向けました。 ああ、私の人生はこれで終わるのかも知れません。 もし生まれ変わったら、もっと強くて、堂々とした、そんな存在になりたい。 なんて考えて、目を閉じた時。 かこん。 と音がしました。 一拍間を置いて、私の閉じた瞼を光が襲いました。
7 23/06/11(日)19:55:00 No.1066491058
それは暴力としての光。 悪を滅する正義の閃光。 何よりも厳しく糾弾し、何よりも優しく守るための『彼女』の武器。 その時、私の眼は灼かれたのです。
8 23/06/11(日)19:55:23 No.1066491244
一瞬の光が収まった後も、私はその衝撃から眼を開けられないままでいました。しかし、仮にも目を塞いでいた私と違い、光をまともに受けたゲヘナの人たちは叫び声をあげていました。 私はわけがわからずその場にしゃがみ込んでいると、ドタバタと格闘するような音がして、恐怖でさらに身を縮めました。 そして、うずくまった私の元に誰かの気配がしました。 「歩けますか?ここは危険です。すぐ外に出ましょう」 鋭さと優しさが混じった不思議な声でした。声の主は言葉通り私の手を引いて外に連れ出してくれました。 なんとか目を開けると、そこには私を追ってきた人たちが手足を縛られて転がされている姿がありました。 彼女たちはなぜか頭にヘッドホンを付けていて、呻き声をあげています。
9 23/06/11(日)19:55:53 No.1066491446
「今日は少し遠くパトロールに出ていてよかったです。怪我はありませんか?」 横の声に振り向くと、心配そうな顔をしている少女がいました。 透き通るような銀髪に純白の羽根を付けた少女は、私より一回り大きく、大人びた顔つきから歳上であろうと思えました。 その姿があまりに眩しくて、私はまだ眼に閃光が残っているのではないかと眼をしばたたかせましたが、彼女の姿は依然変わりませんでした。 「ヴァルキューレには通報しましたので、もう大丈夫ですよ」 「あ……あの……た…………助けてくれて、ありがとう、ございます…………」 私が、なんとかお礼を絞り出すと、彼女はふっ、と口元を緩めました。 「いいえ。やりたくてやっていることですから。あなたが無事でよかったです」
10 23/06/11(日)19:56:15 No.1066491625
身体が震えました。 恐怖の残滓からではありません。感動で震えたのです。 綺麗で、格好良くって、一言で称するなら、『ヒーロー』。 その後、私は彼女にトリニティの学区まで付き添ってもらいました。 送ってもらっている最中、私は必死に彼女に話かけ続けました。 あまり上手くお話しすることはできなかったけれど、少しでも彼女のことを知りたかったのです。彼女と関わりたかったのです。 彼女はトリニティ総合学園の生徒だそうで、こんなことをしているということは、あの正義実現委員会なのかと聞きましたが、違うそうです。 「私は………そうですね、なんと言えば良いのでしょう。正義実現委員会を否定するつもりはありませんが、組織で動く彼女たちでは手が届かないところもあるでしょうし、何より治安維持組織にだけ任せっきりで、市民が何もせず平和を享受するというのは、身勝手だと思うんです。だから私がやっているのは、個人の人助けの延長、なんです」
11 23/06/11(日)19:56:36 No.1066491812
語る姿は自嘲しているようでも、誇らしげなようでもあって、普段の彼女を知らない私には気持ちを推し量り切ることはできませんでした。 「ここまで来ればもう安全です。それではさようなら、お気をつけて」 トリニティの学区内部に入って、彼女と別れて、家に帰るまでの道筋で考えました。家に帰って、お風呂の中で考えました。ベッドに入って、布団の中で考えました。 目を閉じると、あの時の閃光が瞼の裏に灼き付いていました。 眠りについて、朝起きて、差し込んでくる太陽の輝きを見て、私は決心しました。 これまで漫然と生きてきた私にはなりたいものがありませんでした。 だけど、あの日から私の世界は変わったんです。 彼女のように堂々と、悪を見つけ正義を成す、そんな『ヒーロー』になりたいと、自分を変えなければならないと、誓ったのです。
12 <a href="mailto:sage">23/06/11(日)19:57:44</a> [sage] No.1066492288
宇沢がスズミに憧れて自警団に入ったりそもそも不良狩りもスズミから影響受けてたりしてたらいいなと思った怪文書です
13 23/06/11(日)19:58:24 No.1066492562
いい…
14 23/06/11(日)20:00:32 No.1066493585
スズミさんいいですよね…
15 23/06/11(日)20:02:28 No.1066494556
ありがたい… 過去を振り返って文化の違いであることがちゃんと分かってるの凄くいいな…
16 23/06/11(日)20:04:40 No.1066495592
レイサ以外にも星の輝きに焼かれた生徒いるんだろうな…
17 23/06/11(日)20:05:18 No.1066495902
自警団の団員だいたいスズミに憧れてる説
18 23/06/11(日)20:07:11 No.1066496916
常識人っぽい顔してるくせにプロローグでシャーレに乗り込んでくるタイプの女だからなスズミ…
19 23/06/11(日)20:09:09 No.1066497969
>レイサ以外にも閃光弾の輝きに目を焼かれた生徒いるんだろうな…
20 23/06/11(日)20:15:55 No.1066501966
自警団の2人いいよね…いい…
21 23/06/11(日)20:20:57 No.1066504814
自警団団長もそのうち出てくるのかな
22 23/06/11(日)20:29:16 No.1066509189
>レイサ以外にも星の輝きに焼かれた生徒いるんだろうな… スズミフォロワーかなりいるからね
23 23/06/11(日)20:29:54 No.1066509558
書き込みをした人によって削除されました
24 23/06/11(日)20:31:25 No.1066510439
>自警団団長もそのうち出てくるのかな スズミが始めて回りが勝手に追従してるから自警団に上下関係はないよ 敢えて言うなら創設者のスズミだけどスズミは組織化いやがりそう
25 23/06/11(日)20:31:27 No.1066510455
お話の外側で当たり前のようにヒーローやってるのがいいよね…
26 23/06/11(日)20:32:14 No.1066510834
へぇ スズミの良さを分かってるのって俺だけじゃなかったんだ
27 23/06/11(日)20:32:36 No.1066511019
は?スズミ様でしょ?まさかあんた…
28 23/06/11(日)20:34:57 No.1066512208
>お話の外側で当たり前のようにヒーローやってるのがいいよね… メインにちらっと出てきただけでヒーローやる女だからな…
29 23/06/11(日)20:41:00 No.1066515640
やってる事キックアスなのにこの胸に湧き上がる感情はなんだ