23/05/29(月)22:09:50 翌る... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1685365790946.jpg 23/05/29(月)22:09:50 No.1062189132
翌る日の事。トレーニングを終えて帰り支度をしていたグラスワンダーの目に一人のトレーナーの姿が目に入った。 彼は忙しなく手元のノートブックやトレーニング教本のページを捲り、何かを読み見て,何かを書き殴る。そんな事を繰り返していた。焦った様な、困った様な顔で。 何か放っておけない。そんな気持ちでグラスワンダーは彼に声を掛けた。 「こんばんはトレーナーさん。担当の方はもうお帰りになられたのに、随分と仕事熱心ですね?」 「あ、嗚呼。グラスワンダー君か。こんばんは。此れぐらいトレーナーなら誰でもやるだろう?」 必死になって平静を装おうとするのが誰にだって分かる取って付けた様な歪んだ笑顔だった。 「其れにしては随分と焦っていらっしゃる様に見えましたけれど…良かったらお話でも聞きましょうか?」 「そんな迷惑は掛けられないよ」 「貼り付けた様な笑顔で対応される担当の女の子の方が余程迷惑かと思われますが」 グラスワンダーは敢えてザクリと切り込んだ。トレーナーは苦しげな声を漏らして黙り込んだ。
1 23/05/29(月)22:10:41 No.1062189517
「彼方のベンチへ」 グラスワンダーに招かれるまま、トレーナーはベンチに腰掛けた。グラスワンダーは自分の水筒から暖かいお茶をカップに注ぎ、差し出した。 トレーナーは静かにお茶を飲み、ほぅ…と吐息を吐くと毒が抜けたように小さく「美味しい…」と呟いた。 「お口に合って何よりです。それで、先ほどの随分と焦った顔はどうしたのですか?」 グラスワンダーの問い掛けに、トレーナーはちびちびとお茶を飲みながら心中を明かした。 「…自分に自信が持てないんだ。先輩トレーナーの元で勉強もさせて貰ったし、彼女を担当して一年になる。 数は少ないが勝ち星も得た。だけど同期とその担当はどんどん前に進んでいく。模擬レースにも何度も出たし限界を見極めるトレーニングも重ねている。 僕は、僕の担当が決して遅いだなんて思っていない。数字だけなら負けてないんだ。彼女だって何時もやる気に満ちている。なのに、勝たせてやれなくて…自信が無くなってしまったんだ…」
2 23/05/29(月)22:11:14 No.1062189770
語り終えたトレーナーはぐったりと肩を落とし、それを見ていたグラスワンダーはしっとりと彼の肩に積もる陰気を見て取れた。グラスワンダーはゆっくりとカップの中のお茶を飲み干すとトレーナーに声を掛けた。 「トレーナーさん、トレーナーさんの熱意と無念の気持ちは確かに私に伝わりました」 「グラスワンダー君…」 「其処で、一つ提案になります。トレーナーさんは、担当の為ならば文字通り何もかもを投げ出すお覚悟はありますか? 貴方の様に迷えるトレーナーを救う物があります」 グラスワンダーの重い問いに、少し迷ったトレーナーではあったが、最後には「ある」と気持ちのこもった目で応えた。 「では、次の週末、指定の時間と場所でお会いしましょう」 そう告げると、グラスワンダーはトレーナーと別れた。
3 23/05/29(月)22:12:44 No.1062190376
当日。トレーナーはカーテンで窓を閉じた小さな空き教室の中でポツンと置かれた椅子に座っていた。 彼が教室に着てから少しして道着を着たグラスワンダーが現れた。片手に布に包まれた何かを携えて。 「それは何なんだい? グラスワンダー君」 「これはですね…」 何かを包み隠していた布が引き剥がされ、漆塗りの黒い鞘、鍔にはウマ娘の横顔が作られ、柄巻は鮮やかな朱色の日本刀だった。 「ご安心下さい。この刀に刃は御座いません。この刀の力を知れば知るほど、刃が付いている事は無粋と知るでしょう」 鯉口を切り、刃のあるべき場所を撫でたグラスワンダーの指は、決して怪我しなかった。 「命刀、人脱刀(ひとだっち)…此れは何代もの刀鍛冶のウマ娘によって打たれた刀の一振りとなります。 古よりウマ娘と寄り添い歩くも、己の道に迷う人間の活路を開く為に作られたと言う…」
4 23/05/29(月)22:13:05 No.1062190508
その銀色に耀く刀は、薄い灯りに照らされて青白く耀き、酷く美しかった。トレーナーはそう思い、生唾を飲んだ。 「今一度問います、トレーナーさん。全てを捨てる覚悟はありますね?」 真剣な眼差しで自分を見るグラスワンダーに、トレーナーは確かに頷いた。 「では、目隠しを…確りと結んで下さい」 言われるが侭にトレーナーは黒い目隠しを結んだ。そして… 「では、参ります…」 人脱刀を構えたグラスワンダーは確りとトレーナーを睨んで、そして 「はぁ!」 鯉口を切り、刀を振るう。ザクリ、とまるで肌が抉り取られた様な感覚。だが痛みは無い。寧ろまるで鉋にでも掛けられて表面を磨かれた様な… 「ふんっ!」 斬ッ。また斬られる。不要な物が切り落とされる。 「せやぁ!」 斬ッ。硬い蛹の殻に切れ目を入れられた様な感覚。嗚呼、あと少しで、僕は、僕は… 「お覚悟!」
5 23/05/29(月)22:13:27 No.1062190669
斬ッ!! グラスワンダーの振るった最後の一太刀で、僕は生まれ変わった。そう確信した。 「…目隠しをどうぞ、外して下さい」 言われるが侭に目隠しを外す。其処には、ダボダボの男物の服を着た、大きな一筋の流星を持った栗毛のウマ娘が居た。 「…此れが、僕」 グラスワンダーに手渡された鏡を見て、ペタペタと顔に触れた。体の奥底から、動きたい、走りたいと言う気持ちが溢れ出てくる。 筋肉の付き方も、関節の具合も、人間とは全く違う。此れが、此れがウマ娘。女神の寵愛を受けて大地を駆ける生き物の体… 「では、私は此れで…服は此方に。後は、女神様が導いてくれます」 そう告げるとグラスワンダーは僕を部屋に残して去って行った。僕は暫く自分の体を動かしたり曲げたりして具合を調べていた。 其れから、服を着て学園の中庭に出た。此れからどうしようか。トレーナーバッチは消えて学生証が床に転がっていたし、財布の中の身分を証明する物は全部今の『僕』の物になっていた。
6 23/05/29(月)22:13:58 No.1062190904
ベンチに腰掛けて陽の光りを浴びていると不意に────! と僕の名前を呼ぶ声がした。その声は、僕の担当のXXXXちゃんだ。 「何所行ってたの────。今日は新しいシューズ買いに行こうって言ってたじゃん」 そんな予定だっただろうか。薄らボンヤリとする記憶を辿ると、確かにXXXXとシューズを買いに行こうという記憶があった。 「確りしてよね。私と貴女でタッグを組んで今までレースしてきたんだから! トレーナーを吃驚させてやりましょ!」 そうだね…うん…うん。そうだ。吃驚させてやろう。私達は、決して遅くなんかないって。 「ほら! シューズ選んだら後は喫茶店で甘い物食べてさ! 明日からのトレーニングも頑張ろうよ!」 「うん、そうだね!」 私は鞄を肩に担いでXXXXと一緒に掛け出した。きっと、明るい未来へ。少しでも、明るい未来へ。私達ならたどり着ける。根拠の無い、でも強い自信があった。 三女神の噴水がやけに輝いて見えたのは、何かの思し召しなのかも知れない。
7 23/05/29(月)22:14:19 No.1062191076
邪神…
8 <a href="mailto:終わり">23/05/29(月)22:14:37</a> [終わり] No.1062191216
ウマ娘にTSして仲の良い相棒と青春したかった
9 23/05/29(月)22:16:03 No.1062191849
今回はTSならホラー要素薄い方だな…
10 23/05/29(月)22:23:59 No.1062195128
綺麗なお話だけどなんか大切な物も失ってるような……
11 23/05/29(月)22:25:32 No.1062195751
>綺麗なお話だけどなんか大切な物も失ってるような…… 何もかもを投げ出すって言った
12 23/05/29(月)22:26:09 No.1062195997
>綺麗なお話だけどなんか大切な物も失ってるような…… ウマ娘ではないただの人として生きてきた日々を捨てちゃったからな それを選んだのはかつて彼だった彼女だ
13 23/05/29(月)22:33:18 No.1062199075
指導する側からされる側になってしまった…
14 23/05/29(月)22:35:26 No.1062199947
それで教え子ちゃんの今のトレーナーはどこにいるんで…?
15 23/05/29(月)22:37:36 No.1062200932
>それで教え子ちゃんの今のトレーナーはどこにいるんで…? 本人が2人でトレーナーを見返すって言ってたでしょ
16 23/05/29(月)22:38:33 No.1062201335
>それで教え子ちゃんの今のトレーナーはどこにいるんで…? でえじょぶだ 三女神様がマッチングしてくださる
17 23/05/29(月)22:45:10 No.1062204245
TS怪文書ありがたい…俺も一思いに切ってくれ
18 23/05/29(月)22:48:25 No.1062205658
おれもウマ娘になってトレセン学園で青春したい!!
19 <a href="mailto:s">23/05/29(月)22:56:13</a> [s] No.1062208829
TSシリーズはあと2つ3つはネタ思いつくかもしれません お楽しみ頂きありがとうございます
20 23/05/29(月)23:09:12 No.1062214317
栗毛なのはグラスに寄ったのかな…
21 <a href="mailto:s">23/05/29(月)23:18:05</a> [s] No.1062218148
>栗毛なのはグラスに寄ったのかな… グラスちゃんの栗毛綺麗だよねって言う思いつきで決めました
22 23/05/29(月)23:18:13 No.1062218203
ひとだっちはちょっとズルい