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  • 泥パワー のスレッド詳細

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    23/05/20(土)18:38:19 No.1059085742

    泥パワー

    1 23/05/20(土)18:40:06 No.1059086304

    泥の筋力

    2 23/05/20(土)18:48:01 [sage [1/7]] No.1059088784

    恐怖がないわけじゃない。追われる緊張感は肌を氷の糸と針で縫われるような悪寒を覚えさせる。鋭く、冷たい。 それでも私の歯の根がぎりぎりのところでカチカチと音を立てないのは、それだけ目の前の背中が揺るぎないからだ。 セイバーが路地裏の陰の上を滑るような淀みのなさで私の前を進む。まだあの魔銀と黒鉄の鎧も着ていないのでスカートがふわふわと棚引く。 全速力を出せばあっという間に見えなくなるだろうその背中はしかし決して私の視界から消えてなくならない。常に等間隔で走っている。 私の足に合わせてくれている。それも私が必死で走りすぎて周りが見えなくならないよう、なるたけスピードを抑えて。 「大丈夫?」 「………っ、はいっ!」 曲がり角ではこうして速度を緩め、走り慣れない私が勢い余って転ぶのを防いでくれる。 日中ずんがずんがと自由気ままに街を練り歩いていたのが嘘みたいに繊細な気遣いをしてくれていた。分からない人だ。 セイバーの足が止まったのは路地の道を十字に結んだところにある少し開けた広場だった。 宵の口にしては不気味なほどに誰もいない。それが人払いの魔術によるものだということくらい私にだって思い当たる。

    3 23/05/20(土)18:48:13 [sage [2/7]] No.1059088862

    「はぁ、はぁ………っ、セイ、バー………?」 「うん。ここで一旦迎え討つ」 膝に手をついて息を整える私の傍ら、セイバーは腕をだらんと垂らし、まるで夜風を肌で感じているかのようなリラックスした姿勢で突っ立っている。 横顔は精悍。無表情なれど凜々たる気色。構えてさえいなくても既に臨戦態勢なのが私にも分かった。 セイバーがあんまりにも落ち着いているから私まで少し落ち着いてきて、そうすると耳にかちゃかちゃという硬質な異音のざわめきが忍び寄ってくる。 鉄じゃない。陶器でもない。木が堅いものと擦れ合う音だ。そういうものが雨音のように四方八方から聞こえる。 やがて建物の影から黙ってひょっこりと姿を表したのは、洋服を着た私と同じくらいの背丈の人影だった。 「人………?」 「いや、違う。人形だね。囲まれているよ」 セイバーに指摘されて急いで振り向くと、同じような背格好の人影がにょきりと暗がりの中から生えていた。1体、2体。 いや、路地の陰からだけではない。塀の上、建物の屋上、そういったところにも次々に人影が現れている。 最寄りのものを観察する。可愛らしい薄青色のドレスを着ていた。一見は女の子にしか見えない。

    4 23/05/20(土)18:48:29 [sage [3/7]] No.1059088935

    一瞬セイバーの言ったことを疑ってしまうが、よくよく見ると顔は目鼻口を象られているだけでのっぺりとした無表情だ。 手袋や袖やスカートで関節の部分は入念に隠されているがそれでもどこか動きに僅かなぎこちなさがある。 まるで人間のようでありながら人間ではない。そういうものがまるで人間のように動いて私たちを取り囲んでいる。無言の敵意がぴりぴりと私の肌を撫でていた。 「人形………人形遣い………!」 「ひー、ふー、みー。10体とちょっとか。私のお手並み拝見といったところかな?なかなか小癪じゃん」 私がごくりと喉を鳴らす一方でセイバーは指折りなんかして泰然としている。………人形たちが動き出したのは次の瞬間だった。 合図も無しに着飾られた人形たちが一斉にこちらへ向けて走ってくる。ひたひたと。よたよたと。 ホラーを題材にした小説の中の出来事みたい。狂気にかられた民衆がお前を殺したいと駆けてくるんだ。 各々の居場所、各々の速度によって広場の中央にいる私たちへの到達時間が違う。似通っているのは一様に腕を振りかざして殴りつける気満々だということ。 路地を抜け、塀を乗り越え、屋上から飛び降り、殺到してくる人形たち。

    5 23/05/20(土)18:48:39 [sage [4/7]] No.1059088984

    殺到する木製の殺意に怖気が走り、思わず一歩後退りした私のそばでセイバーがふっと呼吸を入れた。 僅かにその細身が撓む。矢を番えた弓の弦のように膝へ小さく力が矯まる。空気を掴むように両手の五指が順番に柔らかく畳まれる。 撲殺しようと目いっぱいに振りかぶられた人形の拳が空き地の中心にいる私たちを捉える寸前だった。撥条が弾けたのは。 「──────ッ!?」 私の喉から溢れようとしたのは悲鳴?それとも感嘆の溜息?分からない。身体が硬直して声は出なかったんだからどちらでも無かったんだろう。 見開いた私の目に映っていたのは堅い木材の拳が私に振り下ろされるところではなく、それを構成していたパーツが破片になって宙を舞うところ。 そして飛び散ったそれらが地面に落ちるのを待つことなく、塵として消滅せしめる───紅蓮の炎の尾。 人形たちは本当に運が無いと言うより他にない。獲物と見定めてこうして路地裏へと追いたて、必殺の囲いで打ち殺そうととしたものは実のところ獲物などではなかった。 スクラップをばらばらに引きちぎる刃と裁断したものを灰に変える炉が併設された、人形たちにとって悪夢のような焼却マシンだったんだから。

    6 23/05/20(土)18:48:52 [sage [5/7]] No.1059089054

    セイバーはまず一呼吸で人形の一体を頭から股まで縦に両断した。魔力で編まれた直刀はあまりにも切れ味が良すぎて、まるで包丁で寒天でも切っているみたい。 もう片方の手にも直刀。それでコンパクトに横へ薙ぎ人形を四等分。回転するままに孤を動くような体捌き、私へと迫りきていた人形をこちらも真横に真っ二つ。 「───ふッ!」 そうして直刀の柄を逆手に握ったまま、腰だめにしていた拳で宙を擲り付けた。 豪炎が突き出された拳から生まれて吹き荒れる。竜の火の吐息と化したそれが叩きつけられたのは、押し寄せてきていた人形たち。 バキバキと小気味よく木材が爆ぜる音がした。あまりの火力で人形の四肢が変形し、引きちぎられ、炎の牙で咀嚼されて瞬く間に燃え尽きていく。 セイバーが炎を操る英霊だということは知っていたけれど。こうして間近で見てみれば、なんて威力。なんて強さ。 すぐ目の前で超高熱が発せられているというのに熱さは感じても不思議と苦しくはなかった。それがセイバーのコントロール下にある炎だからなんだろう。 それよりも刹那の間に起きた圧倒的な破壊に魅せられていた。あまりに瞬時のことで言葉もない。ただ胸がドキリと弾む。

    7 23/05/20(土)18:49:04 [sage [6/7]] No.1059089124

    こんな凄烈な破壊を見せつけられては、恐怖を感じるより前に感心してしまうしかない─── ぽかんとしてしまった私の身を竦ませたのは、ドンッ!と耳を劈いた破裂音。セイバーの炎とも違う爆裂だった。 「きゃっ!?」 一瞬の閃光。炎。衝撃。ぱらぱらと細かい木片が私の頭の上に降ってくる。 目を向けると、セイバーが叩き切って吹き飛ばしたことで燃え尽きなかった人形の残骸があったあたりが焼き焦げていた。何が起きたの───? 「………ふーん。組み付いたら爆発するようにしてあるのか。ますます小賢しいね」 「ば、爆発っ!?」 「もともと使い捨ての雑兵くらいのつもりなんでしょう。気をつけて処理しないと」 直刀を二振り握った二刀流で佇むセイバー。落ち着き払った声音だけれど、油断の色はまるでない。 そんなセイバーの態度には安心感を覚えたが、状況はまるで楽観視できやしない。 こんな精度の高い自動人形を複数手配して、しかも消耗品じみた爆弾扱い。敵が魔術師だとしたらかなり高位の腕前だ。私なんてまるで及ばないほどの。 人形たちは一瞬のうちに数体が蹴散らされたことでセイバーを警戒したのか、包囲の輪を少し広げて様子を伺っている。

    8 23/05/20(土)18:49:15 [[7/7]] No.1059089178

    「せ、セイバー………大丈夫ですか、突破できますか………?」 人形たちを柔らかく睨むセイバーへついそう尋ねた。返ってきた返事は「そうだねぇ」とのんびりした調子だ。 ───それが戦士の脱力であり、すなわち最大の脅威に備える構えであったことをすぐに私は知ることになる。 「こいつらは別に、どうとでも?何なら君とダンスを踊りながらでも片手間に蹴散らしてみせるよ!」 「冗談を言ってる場合ではなくて………!」 「ふふーふ、ホントだよぉ。私は最優にして至上の英霊だって言ったでしょ?信用しなってば。でもね───」 その時、セイバーの雰囲気がふと変わった。 軽く手を伸ばせばすぐ触れられる距離にいたからかもしれない。ざわりと音を立てるように空気が変質したのを私は感じた。 「セイバー………?」 「私なら、本命は別に用意する」 口にした途端、セイバーが私を背に庇うように大股で一歩踏み込む。双剣を撃ち振るった。 何かが飛んでくる風鳴り音さえ私には聞こえなかった。直後、轟音炸裂。眩い魔力光が目を焼き、金属の軋む音が鼓膜を焼く。 悲鳴さえ上げられない。人形なんてただの布石。最初から私たちは、遠くから狙われていた───

    9 23/05/20(土)18:59:58 No.1059092504

    深夜からSSが多くて助かる…

    10 23/05/20(土)19:27:46 No.1059102524

    戦闘描写がカッコいい セイバーの強さがよく分かる

    11 23/05/20(土)19:32:44 No.1059104469

    バトル苦手とか言いつつ書けるんじゃん! バトル苦手とか言いつつ書けるんじゃん!

    12 23/05/20(土)19:39:00 No.1059107079

    びっくりした時内心ほわぁって言ってるんだ 俺は詳しいんだ

    13 23/05/20(土)19:42:25 No.1059108456

    ていおー様の対応ヤバいけどアーチャー組の連携もヤバい

    14 23/05/20(土)19:45:28 No.1059109660

    ほわぁ…って驚いてるだけの瓜ちゃん

    15 23/05/20(土)19:47:06 No.1059110322

    ほわぁちゃんはSランク魔力タンクだから…

    16 23/05/20(土)19:53:33 No.1059113058

    セイバーは魔力タンクを与えると攻略がサクサクになるぞ