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23/05/08(月)00:01:20 晴れた... のスレッド詳細

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23/05/08(月)00:01:20 No.1055017172

晴れた空。 眩しい日差し。 いつものような景色だけど、違うところがある。 街の様子。 のどかな田舎のマサラタウンと異なり、多くの高層ビルの立ち並ぶ光景。 そもそもここはカントーではない。 イッシュのヒウンタウンだ。 そこのホテルの一室にブルーと両親がいた。 「いいホテルだなー、パパこんなホテル泊まるの初めてだよ」 父が部屋を見回す。 そこそこ高い部屋をとっており、綺麗な内装にブルーも感心する。

1 23/05/08(月)00:02:42 No.1055017697

「いいの?ブルーがお金出して」 「いいの。アタシが稼いだお金でパパとママと旅行に行くの夢だったから」 心配する母に笑う。 再会できるまで親子らしいことが出来なかった。 だからせめて、今は親孝行がしたい。 離れている間、ずっと自分を探してくれていた。 生きる為とはいえ、手を汚してきた自分を受け入れてくれた。 そんな優しい両親に、恩返しがしたい。 それが今回の旅行の動機だった。

2 23/05/08(月)00:02:59 No.1055017797

「レッド君は誘わなくてよかったの?」 母がある人物の名前をあげる。 レッド。 自分の大事な人。 自分と両親のために戦ってくれた人。 今では最愛の恋人。 その名を聞くとそれだけで胸が高鳴る。 それは自覚し、否定しようのないことだった。 「家族旅行だから。 レッドも連休でも仕事なんだから来れないよ」 一応、誘いはした。 だけど来れなかったのだから仕方がなかった。

3 23/05/08(月)00:03:35 No.1055017982

「レッド君と家族になるのはまだまだかしらね?」 「ママ!」 恥ずかしくなり、つい顔が赤くなる。 にこやかな笑みから、母に悪意はないだろうというのはわかる。 だけど、指摘されると照れてしまう。 彼とそうなることを考えなかったわけではない。 だけどまだ早い。 貯蓄自体はあれど、もう少し。 恋人としての時間を楽しみたかった。

4 23/05/08(月)00:06:53 No.1055019153

母の顔を見る。 嬉しいことがあったようにこちらを笑顔で見つめくるだけだった。 いい人を見つけてくれてよかった。 そんな想いが伝わるようだった。 大人になったつもりだが、親からしたら自分はまだ子供。 まだまだ敵いそうにない。 「私たちはイッシュは初めてだけど、ブルーは何回も来てるんでしょう?」 別の話に切り替えてきたことに安堵し、それを引き継ぐ。 「うん。だから今日はアタシがパパとママを案内するから」 「ははは、頼もしいガイドさんだ」

5 23/05/08(月)00:07:08 No.1055019266

両親が笑う。 娘にしてもらうことが嬉しいのだろう。 そうであればいいとブルーは思った。 「今日はヒウンアイス食べに行くわ。 人気だから早く行かないと売り切れちゃうから」 「あんまりはしゃぐなよー。 慌てると怪我するからな」 父に言われ、自分はテンションを上げすぎたのかと少し反省した。

6 23/05/08(月)00:10:52 No.1055020657

その日の夜。 「だからね、そこでパパが川に落ちそうになっちゃって。 リリリがいたから助けられたけど」 「たはは。でも無事でよかったよ」 レッドと通話し、今日起こったことを話す。 楽しかったこと。 失敗したこと。 彼と少しでもそれらの情報を共有したかった。 「楽しそうでよかったよ。 両親も喜んでくれてるんだろ?」 「うん。はしゃぎすぎて疲れてホテルに帰ったらすぐ寝ちゃったけど」

7 23/05/08(月)00:16:30 No.1055022661

今は宿泊してる部屋を離れ、通話で通話していた。 夜遅くになったため人も少ない。 だから部屋にいるよりは気兼ねなく通話ができた。 「そっちは昼くらい?」 「ああ。もうちょっとしたら昼飯の時間ってくらいかな」 時差はおよそ半日ほど。 こちらが深夜ならば向こうは昼間だった。 「時差がありすぎて連絡しにくいのが辛いわ」 「仕方ないさ。 それに旅行から帰ってきたら好きなだけ話せるしな」 「…そうね」

8 23/05/08(月)00:28:49 No.1055027020

レッドの声音。 そこには感謝だけでなく、別の感情。 隠そうとしてもブルーにはわかった。 「レッド、寂しそう」 「え、ああ…。 オレ、両親いないから」 「…うん」 前に聞いたことがあった。 レッドの両親のこと。 幼い頃に事故で亡くし、それからは親戚の援助こそあれ1人で生きてきた。 そんな彼の話。 初めて聞いた時はそんな彼に今までした仕打ちに後悔してしまった。

9 23/05/08(月)00:39:02 No.1055030284

「ブルーは、生きてるうちにちゃんと両親に恩返しできてよかったなって。 それと、羨ましい」 「うん…」 家族を失う。 そんな経験をしたから同じような目にあった自分に親身になってくれたのだろう。 「レッド、あのね」 「あ、ごめん! そろそろ次の挑戦者とバトルする時間だ」 「…うん。 いってらっしゃい」 話を遮られ、仕方なく彼を送り出す。

10 23/05/08(月)00:42:52 No.1055031426

「うん。ああそれと」 「?」 「そこまで気にしなくていいよ。 好きな人が幸せだと、オレも嬉しいから」 「…うん。わかった」 そこで通話が切れた。 彼の言葉を反芻する。 「好きな人の幸せがレッドの喜びでもある、か」 そう言ってくれて、こちらも嬉しい。 自分ばかり幸せになって、恋人には申し訳ない気持ちになりかけていた。

11 23/05/08(月)00:45:51 No.1055032276

だけど、こちらの喜びを向こうも喜んでくれていた。 それがわかるとブルーの心が軽くなっていた。 「レッドのああいうところ、好き」 そう呟き、ブルーは部屋に戻っていった。

12 23/05/08(月)00:50:57 No.1055033738

そして、連休を終えて。 「帰ってきたー!」 自宅に帰ったブルーは父の叫びに苦笑した。 「お疲れ様。旅行どうだった?」 「ああ。楽しかったよ。 ありがとうブルー」 父に頭を撫でられる。 途中で母もそうしてきた。 「ちょっと、パパもママも子供扱いして」 口を尖らせるが、両親は苦笑してきた。 「いいのよ。子供で。 いくつになってもどれだけしっかりしてもブルーは私たちの子供なんだから」

13 23/05/08(月)00:59:46 No.1055036214

優しい両親。 子供として、自分を可愛がってくれる。 温かい家庭。 それを取り戻すまで、どれだけの苦労を重ねたか。 再会する日まで親が良き人でい続けていてくれることが、どれほどの幸運か。 ブルーはこれまでの人生を思い返して、痛感した。 「さ、ブルーはこれから行くところあるんじゃない?」 「行くところ?」 「そうよ。ブルーが大好きなあの子のところ」 「…うん!」

14 23/05/08(月)01:03:47 No.1055037360

母に促され、家を出る。 誰のことを言われたのか。 そんなのは決まっている。 「レッド…」 名を呟くと、頬が緩む。 会いたい。 声を聞きたい。 抱きしめたい。 名を呼ばれたい。 そう思うと早足になっていた。 家にいるだろうか。 出かけているだろうか。 悩みながらもブルーは歩みを止めなかった。

15 23/05/08(月)01:10:23 No.1055039100

レッドの自宅に辿り着き、呼び鈴を鳴らす。 だが反応はない。 留守だろうか。 そう思っている時だった。 「あれ、ブルー?」 聞き慣れた声。 自分を呼んでくれるあの声。 振り向くと、そこにいた。 最も会いたい人、レッドが。 「よっ、おかえり」 「…ただいま!」

16 23/05/08(月)01:14:07 No.1055040007

見たかった恋人の顔。 こちらを包み込む太陽のような温かい笑み。 それを見てブルーはたまらず抱きついた。 「おっと」 少しバランスを崩したが、すぐに建て直した彼に抱きしめられる。 久方ぶりの抱擁。 玄関先とはいえ、外だがかまわない。 ただ、今は彼に身も心も預けていたかった。 髪に彼の顔が押し付けられる。 この恋人も、自分と同じ想いを抱いている。 そうだとブルーは信じた。

17 23/05/08(月)01:19:50 No.1055041380

「ブルー」 「ん?」 抱擁を解かれる。 レッドは、こちらの肩に手を置く。 交わす視線。 何かを決意した目がこちらに向けられる。 それが何かはわからないが、目を逸らさずに受け止める。 「オレと、結婚してくれ。 家族になろう」 「…え?」 困惑。 まず最初に浮かんだ感情はそれだった。

18 23/05/08(月)01:24:37 No.1055042431

「なんで…?」 「ブルーが家族と幸せにしてたらさ。 オレも家族が欲しくなって。 そう思ったらブルーの顔しか思い浮かばなかったんだ」 話を聞いて、段々と理解が追いついてくる。 告白。 プロポーズ。 それを今、ブルーは受けている。 家族になりたい人。 レッドにとってのそれは自分だけ。 それがブルーに耐えがたい羞恥と、歓喜を与えた。

19 23/05/08(月)01:30:54 No.1055043766

身体が熱い。 頭が茹で上がる。 いつものブルーの余裕や冷静さなんて無い。 気の利いた冗談も、恋の駆け引きも出来やしない。 「…はい。ずっと、大事にしてください」 ブルーに今できること。 それはただ彼の想いに素直に答えること。 自分の心に正直になることだった。 恋人でいたい。 それも本家だが、こうなったらもうそうは言ってられない。 この人の妻になりたい。 心の底に眠る願望が止められなかった。

20 23/05/08(月)01:33:00 No.1055044201

「ブルー、大好きだ!」 「うん。アタシも、愛してる」 また抱擁された時、ブルーはそう返すのが精一杯だった。 母だけでなく、恋人も。 自分では勝てない。 ブルーは悔しさと、それに勝る喜びを噛み締めていた。

21 23/05/08(月)01:33:17 No.1055044252

以上です 閲覧ありがとうございました

22 23/05/08(月)01:39:30 No.1055045424

駆け引き上手なブルーとて親とか付き合いの長い相手には勝てない時もありそうかなと ブルーを照れさせたかった回でした

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