虹裏img歴史資料館

1 23/03/28(火)23:12:29 No.1041309659

歩く。 日も暮れた時間。 通い慣れた帰路。 歩く。 荷物を抱えて。 同行人を携えて。 「ねえ」 「ん？」 蓬は隣を見る。 夢芽がいる。 いつものように、すまし顔で。 「どれくらいあっちにいたかな？」 「えー。 1週間くらいなような、2日くらいなような…」 「だよね。なんか変な感覚だよね」

2 23/03/28(火)23:12:45 No.1041309762

夢芽がスマホの画面を向けてくる。 表示された日付。 それは自分たちがあの世界に行った初日で、この世界にいたはずのもの。 「あれだけイベントいっぱいあってさ、帰ってきたら元の時間だよ。 なんかタイムスリップでもした気分」 「うん。うまくは言えないけど、多分そんな気分」 世界のカオス化の影響とやらか。 二代目が気を遣ってわざわざこの時間に帰してくれたのか。 蓬にはよくわからない。 多分夢芽も似たようなものだろう。

3 23/03/28(火)23:13:01 No.1041309879

周りを見渡すと、いつものツジヨキ台の街並み。 似てるようで、どこか違うツツジ台ではない。 住み慣れた、自分たちの世界。 帰っては来たのだが、まだどこかふわふわしていて実感がない。 「なんか夢でも見てたみたいだなーって。 あ、夢芽のことじゃなくて寝てる時に見る方ね」 「うん。それは話の流れでわかる」 少しの間の後、夢芽が聞いてきた。 「私のことは見てないの？」 「だいぶ見てる」 「ならよし」 不機嫌になりかけていたようだが、どうやら許してくれたようだ。

4 23/03/28(火)23:13:18 No.1041309958

ガウマ。 ダイナゼノン。 ナイト。 二代目。 ゴルドバーン。 暦。 ちせ。 みんなもう会えないと思っていた者たちだ。 いや最後の2人は先週会ったから違った。 それはともかく、久しぶりに会えた人たち。 それだけではなく、別の世界の人たちにも会った。 グリッドマンというヒーローにも会えた。 とてつもない強敵と戦って、勝った。 誰に話しても信じてもらえないような光景。 それでも、確かに自分たちが経験したことだ。

5 23/03/28(火)23:13:32 No.1041310060

「なんか色々信じらんないことはあったけど、現実だったんだよねー」 「そうだね。そこに証拠もあるし」 蓬が抱えている荷物を夢芽が指でつつく。 蟹の入った箱。 これから家族と一緒に食べる予定のものだ。 隣の人も含めて。 「本当に私もいいの？」 「当たり前だよ。夢芽も家族だし」 夢芽が顔を赤くして、目を背ける。 かわいいな、と思う。 夢芽の赤面顔など、滅多に見れるものではない。 色んなことがあったが、これが一番の嬉しかったことだ。 これがまた見れるなら、また別の世界でトラブルに巻き込まれても苦ではない。

6 23/03/28(火)23:14:13 No.1041310334

そんなことを思っていると、脇腹を突かれた。 「ちょっと、俺荷物持ってんだけど」 「つまりガードできないってことだよね」 何度も突かれる。 痛くはないが、絶妙にくすぐったい。 「ごめん、ごめんってば！」 「よし」 謝ると、手を止めてもらえた。 ほっとしたが、今度は夢芽がおぶさってきた。 「ちょっと何してんの！？」 「ウイングコンバイン」 しれっと言ってくる。 「何言ってんの！？」 「ほらほら、カニ落ちちゃうよ」 慌てて箱を抱え直す。

7 23/03/28(火)23:14:28 No.1041310417

「降りてって。夢芽か荷物かどっちかじゃないとさすがに運べないって」 「私は蓬抱えててもダイナレックスにしがみつけるんだけど？ 蓬の方が力弱くない？」 「しがみつくだけなのとそのまま歩くのとじゃ違うって」 「仕方ないなぁ」 夢芽が降りて、身体が軽くなった。 「そんじゃ行こ」 「うん」 ひとしきり戯れあい、満足してまた歩き出す。

8 23/03/28(火)23:14:41 No.1041310512

また2人で並んで、歩く。 知らない人やクラスメイトとすれ違い、誰もいない道へと進む。 ただ2人。 夢芽と一緒に。 「あ、そうだ。ちょっと持ってて」 「うん」 カニを夢芽に預けて、スマホを取り出す。 画面を操作して、母に繋ぐ。 スマホを顔に近づけると、すぐに母の声がした。 「蓬ー？どうしたの？」 「えーっと、さっきガウマさんに会ってさ。 カニもらっちゃった。 泊めてくれたお礼だって」

9 23/03/28(火)23:14:55 No.1041310604

「あらそう！ガウマさん元気だった？」 「うん。前より元気そうだった。 仕事あるからってどっか行っちゃったけどね」 当たり障りのないように言い方を変えて説明する。 嘘は言っていないし、もし脚色なしでありのままを話しても信じてもらえないだろう。 そもそも、ガウマとのこれまでの話もそうだろう。 「で、今から夢芽とそっちに行ってるから。 前に話してた彼女」 「…ふーん」 「どうしたの？」 「いーや？蓬も彼女連れてく年頃かって思って」 「それはいいでしょ。じゃ」

10 23/03/28(火)23:15:08 No.1041310678

指摘されると恥ずかしくなり、切った。 ぶっきらぼうな言い方になってしまったが、この後会うし問題ないだろう。 と、少し寒気がした。 「ん」 夢芽からカニの入った箱を差し出される。 受け取るが、じっと見つめられる。 少しばかり、彼女の目に冷ややかなものが入っているように感じた。 「今、女の人の声した」 「いや母さんだからね。家族だから」 受け取って弁明した。 「家族」 言ってから、何かを考えるかのように沈黙した。

11 23/03/28(火)23:15:23 No.1041310769

「私も家族」 「あーうん」 夢芽の方から言われると、照れる。 勢いもあったが、よくそんなことを言ってしまったものだ。 本心ではあるのだが。 「うん。家族」 反芻するかのように、繰り返す。 「家族」 何回か言うと、満足したのかまた黙った。 しばらく2人でただ歩く。

12 23/03/28(火)23:15:37 No.1041310855

「ねえ」 「ん？」 また夢芽に振り返る。 「また、今回みたいに別の世界に行ったりするのかな。 私たち」 「さすがに当分はないだろうけど、またあるかもね」 一度起こったのだ。 二度も三度も起こったとしても不思議ではない。

13 23/03/28(火)23:16:01 No.1041311024

「次はどういう世界に行きたい？」 「どこでもいいよ。蓬が一緒なら」 「そうだね」 夢芽と一緒なら、多分どこでも楽しい。 それは言い切れる。 「でもさ、もし別々の世界に飛ばされちゃったら」 「その時は、何が何でも迎えに行くよ」 「…うん」 少しの間が空いて、夢芽が目の前に飛び出してきた。 「いや私の方が先に蓬を迎えに行っちゃうかも」 「それならそれでもいいかもね」 夢芽を追い越し、前に出る。 彼女も追いかけてきて、また隣に。

14 23/03/28(火)23:16:15 No.1041311122

自然に隣に夢芽がいる。 きっと、これからもそうなのだろう。 いや、引き離されたとしてもそうする。 ガウマも探していた人と会えたのだ。 自分たちだって、離れてもまた会える。 一時、夢芽たちが消えた時は不安で仕方がなかった。 だけど今はここにいる。 夢芽と自分が、ここにいる。 「カニ、美味しいかな？」 「さあ」 他愛無い話をしつつ、そんなことを思った。

15 23/03/28(火)23:16:26 No.1041311191

以上です 閲覧ありがとうございました

16 23/03/28(火)23:17:10 No.1041311454

ええやん

17 23/03/28(火)23:18:44 No.1041312080

カニの件で変なテンションになって勢いで書きました 夢芽さんのめんどくさかわいいところの表現にあれこれ悩みました

18 23/03/28(火)23:25:47 No.1041314761

いいね…

19 23/03/28(火)23:29:09 No.1041315959

見事なお手前で

20 23/03/28(火)23:35:04 No.1041318065

この二人は隙あらばイチャついてそうな雰囲気があって良い…

21 23/03/28(火)23:51:36 No.1041324311

存在したのか…「」リッドマン…

22 23/03/28(火)23:53:37 No.1041325045

>存在したのか…「」リッドマン… imgワールドからやってきたimgエージェントの「」リッドマンは何者なんだ…

23 23/03/29(水)00:04:36 No.1041329137

野暮を言うようだが家族への紹介は既に済ましてると思うぞ ボイスドラマ最終話やら小説の描写から見て

24 23/03/29(水)00:19:50 No.1041334960

良いじゃん…