23/03/20(月)17:26:08 「A7か... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1679300768946.jpg 23/03/20(月)17:26:08 No.1038313639
「A7からB21のツリーまで、文面チェックしておいて」 「A13までは終わってます! 赤字見ていただいたら決裁へ回しますので」 「資材表はこれ、いつのデータ? 昼に南洋艦隊からの搬入予定が来たわね」 「えーとえーと、今朝9時の更新ですから南洋の分はまだです。三十分以内に反映しておきます」 「急いで、工程表は今日中よ。それと終わったらでいいから、方舟周辺の地図に地磁気のデータを追加して。あと、難民リストから測量関係のスキルを持ったバイオロイドをリストアップしてちょうだい」 「はーい!」
1 23/03/20(月)17:26:22 No.1038313688
機能的に整理された室内にデスクが二つ。二人のバイオロイドがお互い目も合わせないまま、自分のデスクの端末を矢継ぎ早に操作し続ける。画面の中では膨大な数の未処理ファイルに、次から次へと「処理済」「仮決裁」「確認待ち」といったアイコンが付けられていく。 司令官が(強制的に)休暇をとっている間、レジスタンスを指揮する中枢の役割をになうオルカ秘書室。その秘書室の頭脳、中枢の中の中枢と呼べるのがレモネードアルファとアルマン枢機卿の二人である。アルマンが卓越した予測演算能力で主に計画立案を担当するのに対し、アルファは世界最高の企業秘書モデルとしてのスキルで、実際に人とモノを動かす運営実務を担当している。どちらも重責ではあるが、北米難民の加入、外部拠点の壊滅、方舟の中央拠点化と、人員・資材・環境のすべてが激変したばかりの今のオルカにあって、単純に仕事量が多いのは圧倒的にアルファの方である。
2 23/03/20(月)17:26:36 No.1038313773
そんなわけで今日、彼女は溜まりつづける事務仕事を一気に消化すべく、朝からオレンジエードとともに自室にこもっていた。 「んんっ……!」 数十分ぶりに画面から目を離し、両腕を上へ伸ばすと肩から首の付け根にかけてがミシミシと鳴る。半日で、旧時代の平均的な人間の管理職であれば二週間はかかるだろう量の仕事を片付けたが、未処理案件はまだまだ残っている。 「一息入れましょう。オレンジエード、お茶を入れてくれる?」 「今ご用意します! んーっ」 ぱっと席を立ち、ひとつ伸びをしてからポットとカップ、ビスケットを手早く用意するオレンジエード。お茶と甘いものはデスクワーカーの必需品である。あっという間に出てきた湯気の立つ液体をアルファは一口ふくんで、ほうと息をついた。爽やかな香りが鼻を抜けていく。 「いい香り」
3 23/03/20(月)17:26:52 No.1038313834
「レアさんからミントの葉を分けてもらったので、ミントティーにしてみました」手作りらしい不格好なティーバッグを、自慢げに見せてくるオレンジエード。アルファはもう一口、今度はゆっくり香りを楽しみつつカップを傾けた。 「戸棚にチョコレートが入っていたでしょう。出してちょうだい」 「やった! 実は狙ってたんです」 嬉しそうに戸棚に飛びつくオレンジエードに苦笑しつつ、アルファはビスケットをかじり、横目でディスプレイを確認する。 「……A21と22はアリスさんに、B5は龍さんに意見を聞きましょう。今夜零時までならぎりぎり修正可能と伝えて、送っておいて」 「はい」チョコレートを盛った皿を置いて、すばやくキーボードを操作してからオレンジエードは振り返る。「このままでも皆さん納得してくれると思いますけど」 「私もそう思うけど、だからこそ合意形成は大切よ。情報の風通しもね」 代行の名のもとに最高権力をふるうことに慣れすぎるとどうなるか、北米でアルファはうんざりするほど見てきた。あの地獄の糞溜りのようなレモネード評議会にほんの少しでも似てしまうことを防ぐためなら、多少の二度手間や三度手間はなんでもない。
4 23/03/20(月)17:27:16 No.1038313951
嫌な記憶を思い出してしまい、洗い流すようにチョコレートを口に放り込んでミントティーをあおったアルファは、オレンジエードがずっと笑顔でこちらを見ているのにようやく気がついた。 「さっきから何をそんなにニコニコしてるの」 「いやー、アルファ様とこうやって一つ部屋で仕事するのなんて初めてで、なんだか嬉しくて」 「そうだったかしら」 「そうですよ!」オレンジエードはカップを持ったままの手を差し上げた。「去年はずーっと北米でしたし、その前はアルファ様があっちにいて私ずーっと中国やインドを駆け回ってましたし、別行動ばっかだったんですから」 なるほど、そういえばそうだったかもしれない。もともと、アルファの手足として現場で動くために作られたのがオレンジエードなのだから、正しい運用ではある。
5 23/03/20(月)17:28:04 No.1038314156
「あ、外回りといえば」それについてアルファが何か言うより早く、オレンジエードはひょいと向き直ってパネルを叩く。「遠征計画書、承認終わったんでした。仮決裁に回しておきますね」 「早いわね」ブラックリバーの指揮官級全員の承認が必要な遠征計画書が、こんなに早く戻ってくるのは珍しい。 「カーンさんとスレイプニールさんは昨日の夕方、直接行って見てもらってきました」 小さい胸を張るオレンジエード。確かに、その二人が毎回回覧のチェックが遅いのだ。 (……この子、結構有能なのね) 何気なく頭をよぎった言葉に、アルファは自分で驚いた。 無論、アルファの補佐役として専用に開発されたS級バイオロイドが無能なわけはない。驚いたのは、百年近くも一緒に仕事をしてきて、彼女に対してそんなことを思ったのが初めてだったからだ。 クローバーの会長に仕えていた頃も、レモネード評議会にいた頃も、アルファの下にはオレンジエードがいたが、彼女が有能かどうかを気にしたことなど一度もなかった。道具が求める結果を出すのは当然。出せないのは道具が悪いか、使い方が悪いか、どちらかだ。
6 23/03/20(月)17:28:19 No.1038314237
「どしたんですか?」 オレンジエードがきょとんとした顔で見てくる。どう答えたものか逡巡していると、 《『オレンジエードのラジオ・オルカライブ!』今日は収録でお送りしております! 最初のお便りは――》 艦内放送のスピーカーから、耳慣れた明るい声とジングルが流れてきた。 そういえば、そろそろ彼女が毎日放送している艦内ラジオの時間だ。業務の合間に完全な趣味でやっている活動だが、なかなかの人気だと聞く。たしか、いつもは生放送番組だったはずだが。 「今日は一日アルファ様のお手伝いですから、前録りしといたんです」 視線で疑問を察したのか、チョコレートを一度に三つ頬張ってもぐもぐと口を動かしながらオレンジエードが笑った。その屈託のない笑顔を見て、アルファは結局思ったことをすなおに口に出すことにした。 「……あなたは、私が思っていたよりずっと有能なのかもしれないわね。評価を改めなくてはいけないわ」
7 23/03/20(月)17:28:43 No.1038314338
長くなったので続き fu2026712.txt
8 23/03/20(月)17:35:46 No.1038316283
怪文書ありがたい…
9 23/03/20(月)17:39:58 No.1038317549
オレンジエードがいいこすぎてつらい
10 23/03/20(月)17:40:29 No.1038317689
まとめ fu2026713.txt バリキャリエリート上司とお馬鹿だけど有能な部下の組み合わせいいよね 本編でこの二人の会話もっとほしい
11 23/03/20(月)17:42:29 No.1038318315
例の画像のコンちゃんでだめだった
12 23/03/20(月)17:42:56 No.1038318451
>地獄の糞溜りのようなレモネード評議会 ひどすぎてダメだった
13 23/03/20(月)17:43:54 No.1038318752
>地獄の糞溜りのようなレモネード評議会 >ひどすぎてダメだった まあ的確なたとえだから許すが…
14 23/03/20(月)17:43:54 No.1038318757
ヴァルキリいさんはさあ…
15 23/03/20(月)17:57:21 No.1038322840
>ヴァルキリいさんはさあ… (すごい わかる)
16 23/03/20(月)18:14:33 No.1038328649
mayちゃんに気を使われないとこうなる例……
17 23/03/20(月)18:18:59 No.1038330114
>>地獄の糞溜りのようなレモネード評議会 >>ひどすぎてダメだった >まあ的確なたとえだから許すが… オメガも大概だしやったことは絶対に許さないんだけど 穏健派で気弱なベータすら含めて他全員ろくに言うこと聞かないで それぞれが好き勝手に行動したがるあの会議の主催やってるのだけは同情する