虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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  • 『────... のスレッド詳細

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    23/03/08(水)22:00:44 No.1034224845

    『────!早い!早いぞ!押し切ってゴール!!』 土曜日の朝、10時を超えてテレビから流れる中央レースの実況。 …トレセンに行ってたら、あの舞台に立っていて…勝つのは───彼女だったのか。 ───── 「アンタ!!!あんな可愛い子を待たせるなんてどんなつもりだい!!」 母の叫び声に気を戻し、テレビの電源を落とす。 「あー!!!!今行くー!!」 いつもの運動ジャージをバッと着込んだ 彼女について行くなら私服じゃ着いていけないから。 水筒を貰って、玄関を開けて、隣に置かれた自転車のロックを押して、前を向く。 真っ白な入道雲と暑い太陽の下── 「おはよう!スズカ」 「…おはよ。…今日も走りやすい天気ね」 太陽のような髪が綺麗に輝いていた。

    1 23/03/08(水)22:01:10 No.1034225030

    周囲に広がる青々と育つ稲穂、真っ直ぐ敷かれたコンクリート、誰も車の通らずただ走れる場所。 ここはスズカのお気に入りの場所のひとつ。駈歩で前を走る彼女に、自転車で後ろを着いていく。 いつもスズカは俺の前を走るし、行先も彼女が決める。 「あっつー…今日は36度だってさ」 「っほっほ…そうね、とっても風が気持ちいいわ」 「……」 どこまで走るのが大好きなんだ…と呆れた、これも何度目だろう。 「スズカ」 「なに?」 「その、走るのが好きだったらトレセンに行った方が…」 「どうして?」 きゅっと振り向き止まる、ジリジリと熱が戻り、彼女と目が合った。暑い空気を吸って、熱をそのままに話した。 「走るなら…もっといいと思うんだ、その…芝も、ダートも綺麗だって言うし、こんな熱いコンクリートで走るよりも…」 「そう…かしら…」 スズカが少し寂しそうな顔をして、そこで俺は口をつぐむ。

    2 23/03/08(水)22:01:34 No.1034225229

    「…今のままでも走るのが楽しいけど?ダメなのかしら…」 「いや、そうだよね…うん!…ごめん、変なこと言った」 「……?」 スズカは止まったことが嫌だったのか、そのまま襲歩で走り出す。 こうなると彼女には追いつけないどころが引き離される、どんどん離されて…止まるまで必死に自転車を漕ぐしかない。 「………」 真っ直ぐ体と頭を落としてどんどん走る。 遠くへと、体が見えなくなるくらい。 (そう、その走り──いつもレースを見てたからわかるんだ、この速さは、きっとレースにいる沢山の子よりも速くて、速くて──) 「はぁっ…はぁっ…!速…クソッ…!!」 ずっとずっと先にいて、俺には届かないんだ。 「あっ……」 気づいたスズカが振り向き止まる。 遠い彼女は蜃気楼のように揺らめいていた。

    3 23/03/08(水)22:02:01 No.1034225445

    「…大丈夫?」 ようやくスズカに追いつくと、彼女はちょっと申し訳なさそうに俺を見る。 「大丈夫。…いや、一旦休憩していい?」 「…うん」 ざっと1キロは差が着けられただろうか?田んぼ道の奥の行き止まりまで彼女は走っていた。 「ごめん、着いてけなくて…」 「ううん、必死で着いてきてるの見て…安心したわ」 「あはは…なんか悔しいな…」 身体能力差でずっとずっと俺とはかけ離れた所にいるウマ娘。それがどれだけ大きくて、どれだけ不釣り合いなのかわかってて…。 「…はーっ!」 水筒を飲み干して、やっぱりそういうのは考えない方がいいと振り払う。 「……ふふっ…かわいい…」 「ちょっかわいいってなんだよ!!」 「………私ね、今のままがいいかな」 「えっ?」

    4 23/03/08(水)22:02:29 No.1034225653

    ────── 遠い日々、走る景色。ずっと続く空。 全部好きで、走るのが大好きで、先頭の景色がとっても好きだった。 ……でも、それだけだと、スッキリしなくなって。 『やっぱり、トレセンに行った方が俺はいいと思うよ』 『そう……かしら……』 その日からだったと思う、1人で走るとすごく楽しくないのに気づいたのは。 いつも前しか見てないし、前だけにしか興味が無い…それで充分。 おかしな話だけど、ずっと…そう思ってた。 だけど、いつだっけ?この違和感に気づいたのは 『待ってよスズカー!』 『ちょっ…待って…』 そうだった、最初は走って追いかけてきたんだ。

    5 23/03/08(水)22:02:52 No.1034225823

    『自転車?』 『うん!スズカに少しでも追いつけるようにね』 そんなのに、負けたくなくて 『ちょっ…嘘だろ…はっや…』 それでも追いかける君が、とても可愛らしくて どんなに差をつけても、必ず後ろに着いてきてくれるの。 『ふふっ…やっぱり私…走るのが好きみたい』 『だったら─────』 『やっぱり、トレセンに行った方が俺はいいと思うよ』

    6 23/03/08(水)22:03:12 No.1034225945

    「……私ね、今のままがいいかな」 後ろに着いてきてくれる君を見るのが好きなんて言ったら…怒られるかしら? 「えっ?」 「ううん、なんでもない休憩は充分?」 「…あ、うん、大丈夫」 ああ…やっぱり私、好きなんだ 走るだけじゃない、先頭の景色と…後ろから着いてくる大切な人が。 この夏が…学校生活が…2人で自由に過ごす日が…ずっと続けばいいな ────ポツリ。

    7 23/03/08(水)22:03:34 No.1034226141

    「…あ、雨……」 入道雲があっという間に包まれて、一気に夕立になる。 「…あっ……」 「ちょっ!スズカ!!急いで雨宿り出来るとこに行かないと!」 ガッと漕いで、スズカの前に出る、近場なら、あの大きな木と竹林の下なら── 「───負けない」 突然スズカは俺の先頭を奪うように走り出す、襲歩で。 「ちょっ!!!今はそういう状況じゃないから!!!」 「そう、これ…これよ…!私が欲しかったのは……求めていたのは…!」 雨の中だろうの平気で走る彼女に、俺は振り回されるようにひたすら走り続けた。

    8 23/03/08(水)22:04:32 No.1034226603

    ~~⏰~~ 「びしょ濡れだぁ…」 結局、彼女に振り回されること数分、彼女が我に返ったのは公園の前で、雨宿りできる場所があったのでそこで隠れることにした。 「……あっ……ふふっ、ずぶ濡れね」 「もう…」 「私ね、やっぱり好きなの。」 「…走るのが?」 「うん、とっても大好き、….これからも、こんなふうに走れたらいいな」 「……勘弁してくれ……」 その、スッキリした顔に目を奪われる。 でも、…そうだ、やっぱり言わないと。 君の走る姿を見たい、でも、ここじゃない、もっと大きく、晴れやかな舞台で── そんなことを言ってしまったら、この関係は終わったしまう。 それでも── 「ねぇ、スズカ───」

    9 23/03/08(水)22:05:24 No.1034226937

    っていうウマ娘がトレセンに行かなかった世界線で 幼なじみねサイレンススズカと2人でずっと夏を過ごすのが好きなんですけど 誰か書いてくんない?

    10 23/03/08(水)22:06:45 No.1034227513

    お前しか書けねぇよ!!!!!! 早く出せ!

    11 23/03/08(水)22:08:45 No.1034228386

    タメ口スズカさんいいよね…… 丁寧語とは違う味がある

    12 23/03/08(水)22:09:37 No.1034228739

    この後の展開が突っぱねるべきなのか2人でそのまま夢叶わずを過ごすのがいいのか俺は分からない ただ美しい

    13 23/03/08(水)22:09:51 No.1034228803

    いい…

    14 23/03/08(水)22:12:22 No.1034229811

    この概念はアリ寄りのアリ

    15 23/03/08(水)22:22:54 No.1034233895

    とてもいい…コメントが難しい…

    16 23/03/08(水)22:28:20 No.1034236066

    「…俺さ、今日レースを見てたんだ」 「……うん」 「スズカみたいな子がね、すごい速さで押し切ってたのを見ていた」 「……」 「スズカは、ここにいるべきじゃないんじゃないのかなって思うんだ」 「──それは」 違うって言いきってくれたらどれだけ楽になれたのか。 彼女がトレセンに行くべきでは無い理由探しばかりしている情けない自分がいる。 だから、否定して欲しいんだ、スズカはここにいて欲しい、また来年もこの夏を過ごせればいい。そんなふうに─── 「…誰かと、ウマ娘と走りたいって、競争したいって思うことはずっとあるの」 「…….そうだよね」 「でも、私はここがいいわ、ここでずっと居たい、それくらい…今の走りを捨ててもいいくら───」 「俺は、そうなって欲しくない」 ちゃんと、言うんだ。

    17 23/03/08(水)22:28:42 No.1034236188

    「ずっと遠くに行ってしまうけど、もう会えなくなるかもしれない、でも…!でも!!」 落ちる生暖かい雫を拭いて、ちゃんとスズカの手を掴む。 「テレビで走る君を見たい。誰よりも強い君が見たいんだ」 「───!!」

    18 23/03/08(水)22:29:59 No.1034236707

    ──────── 走る理由ってなんだっけ?…気持ちいいから?もうそれだけで充分じゃない、そんなふうに生きてたのに…あっという間に足りなくなった。 君が後ろにいて、着いてきてくれるから?今はそれで満足してて───でも─── 「……私、離れたくない」 きっと、これが本音、離れたら、忘れちゃう、絶対、消えてしまう。 消えちゃったら、私はどうなってしまうの?先頭だけの景色では、もう足りないの。…誰かが欲しい。足りない。………足りないから。 「………………俺も、離れたくない」 「……いつかね、トレセンには行きたいって、思ってた」 「…うん」 「でもね、そしたら…だって…ウマ娘じゃないもの、着いてきてくれないでしょ?」 「…トレーナーの資格だって間に合わない」 「…………だから、嫌」 「……そう、だよね」 「……ふふっ」 じゃあ、これは君のワガママってことにしてしまおう

    19 23/03/08(水)22:30:44 No.1034237032

    少し吹っ切れた。 「じゃあ…約束して」 「何を?」 「レース…間近で見て、応援して欲しい」 「………!!」 「ずっと、走る時は見て欲しい、後ろから」 君のワガママひとつと、これで私のワガママひとつ イーブンで終わり、だから、叶えてあげたい。 「……うん!!うん…!!」 雨の空は、あっという間に晴れていた。 綺麗な青空、走るにはとってもいい景色。 今日はもう一度、一緒に走ろう

    20 23/03/08(水)22:31:30 No.1034237364

    ~~⏰~~ 「編入、受かったんだね」 「うん」 ………またねは、言えないから。 「行ってらっしゃい」 「……さようなら」 「…………」 ギュッと、抱きしめられる。 「ずっと、見てて欲しい、…ダメ?」 「もう少し…時間が欲しい」 「……ふふっ、分かった」 電車の出発のベルが鳴り響く、そのまま…去っていく彼女をずっと見ていた。 「今から……ううん、間に合うわけない」 でも、未練がましいのはどうやらスズカと変わらないようだった。 桜が静かに散っていく中、ただ離れる列車を俺はずっと眺めている。スズカの後ろに──後ろに、ずっと居たいから。

    21 23/03/08(水)22:31:58 [s] No.1034237533

    これでおしまい 別の子でも書きたい…

    22 23/03/08(水)22:32:24 No.1034237686

    ありがとう…

    23 23/03/08(水)22:33:10 No.1034237952

    なんというかすごくエッチな文章だ エロくないのに官能小説よんだ気持ちよさがある

    24 23/03/08(水)22:33:51 No.1034238212

    スズカと一緒には行けないけどスズカのゴールになる事は出来るさ

    25 23/03/08(水)22:34:39 No.1034238493

    ダメだ別れだけじゃ満足出来ねぇちゃんとレースを追って約束を果たせ

    26 23/03/08(水)22:38:45 No.1034240076

    説明できない良さがある なんて言ったらいいか分からない俺は学がないようだ

    27 23/03/08(水)22:44:24 No.1034242370

    >ダメだ別れだけじゃ満足出来ねぇちゃんとレースを追って約束を果たせ 7月12日、宝塚記念。 暑い夏、入道雲は空高く、青い景色はどこまでも広がる。 「今日は32度か…暑すぎる…」 夏に入ったばかりだってのに、もうこんな気温だ。 静かに箱を開けて、バッチを見る。 キラリと光った、正式なトレセンのトレーナーになった証、…もう遅いが。 「…君トレーナーかい?担当が走るのかな?」 「ああいえ、違います」 こんなに遅くて、間に合わないって分かってて、諦められなくて… 「担当にしたかった子が走るんです、お節介でも、その子をまだ支えたいから」

    28 23/03/08(水)22:44:39 No.1034242453

    ゲートが開く、彼女はいつも通り大きく逃げていく。 速い、そうだ、この速さだ、誰も着いてこれない、最強の逃げ─── それがずっとずっと好きだったんだ。 ラストスパート、誰よりも早くゴールに向かう彼女は……気づいたようだ。 その時、また足を踏み込む、彼女は遠く、あっという間に俺をぬけていく。 「………行ってらっしゃい、どこまでも遠くに」 静かに、彼女をずっと眺めていた。 もう遠くで、今は近づけないけど、確かに見える位置にいる。 そうして、最後に彼女が振り向く時── 「……またね」 今度はちゃんとこの言葉が言えたようだった。

    29 23/03/08(水)22:45:03 No.1034242597

    「……ふふっ、遅いですよ、本当、早く追いついて…待ってるから」

    30 23/03/08(水)22:45:35 No.1034242810

    あっあっありがとう…本当にありがとう…

    31 23/03/08(水)22:46:36 No.1034243193

    遅いよ本当…その後の事が分かってるとね…最後が…

    32 23/03/08(水)22:48:54 No.1034244083

    ダイワスカーレットとかどう?またはスペちゃんも見たい

    33 23/03/08(水)22:49:40 [s] No.1034244407

    >ダイワスカーレットとかどう?またはスペちゃんも見たい いいよ!!!!!

    34 23/03/08(水)22:51:05 No.1034244947

    田舎の風景と走るスズカさんと夏は綺麗すぎる 願わくばそのままずっと居るルートも見たかった

    35 23/03/08(水)22:51:59 No.1034245283

    ふふいいもんみた

    36 23/03/08(水)22:54:02 No.1034246049

    失われた原風景だしこのスズカさんと一緒にずっと過ごしてたい 体力持つ自信はないが

    37 23/03/08(水)22:57:16 No.1034247143

    >田舎の風景と走るスズカさんと夏は綺麗すぎる >願わくばそのままずっと居るルートも見たかった あの時、言わないまま、秋が来てしまった。 涼しくて走りやすい、マラソンの季節だし、自転車を漕いでる俺が言うのも違うと思うけど…とても運動に適した季節だ。 「…ね、スズカ」 「どうしたの?」 「……ううん」 もう、未練は捨てよう、俺のわがまま、今スズカが笑ってて、幸せそうなのにこれ以上何を望むのか 「今度さ、家とスズカの家が一緒に温泉に行くらしいよ」 「……えっ」 「あれ知らなかった?」 「走れる場所があるかしら…」 「そっち???」 全く、彼女は変わらない、…それがとても安心して、好きなんだ

    38 23/03/08(水)22:59:02 No.1034247731

    「温泉に入って疲れをとったらまた走る…とか」 「……!!」 「……ふふっ」 …うん、やっぱり俺はこの時間が好きだ。 秋の稲穂に、ずっと嬉しそうに走る彼女を追いかけていくのが好きなようだ。 「…スズカ、来年もまたよろしくね」 「…どうしたのあらたまって」 「ううん…なんでもない」 ずっと、ずっと…彼女の後ろにいたいから

    39 23/03/08(水)22:59:16 [s] No.1034247827

    という感じで如何でしょうか

    40 23/03/08(水)22:59:43 No.1034247973

    ありがとう………

    41 23/03/08(水)22:59:53 No.1034248024

    一日の終わりに良い怪文書を見た ありがとう…

    42 23/03/08(水)23:01:04 No.1034248449

    最初からトレセンに行かなかったじゃなくて 行く選択肢もあったけどウマ娘が捨てたというのが素晴らしいよね 自分が本当に欲しいもののために大切な夢を捨てても…ってのは美しい…

    43 23/03/08(水)23:02:57 No.1034249065

    トレセンに行ってレースしないと幸せになれないみたいのはなんか変だと思うしね いろんな形の幸せがあっていい

    44 23/03/08(水)23:05:45 No.1034249970

    とてもエロい怪文書なんだ 俺はこの怪文書を上手く言うことが出来ないただ凄くいい

    45 23/03/08(水)23:07:42 No.1034250577

    ではドーベルとか…メジロだから難しいか

    46 23/03/08(水)23:08:27 [s] No.1034250794

    >ではドーベルとか…メジロだから難しいか いいよ!!!

    47 23/03/08(水)23:11:13 No.1034251631

    綺麗な怪文書すぎてコメントが難しい ただ見える景色がとても美しい