ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
23/02/14(火)23:46:05 No.1026653717
泥の夜間帯
1 23/02/14(火)23:54:50 [今日のうちに 1/3] No.1026656902
「はい怜くんこれ」 「……ありがと。チョコだな?」 寒空。瓦礫の公園。二人並んで腰掛ける男女。 女の子から男の子へ、何の毛なしに渡される包み。 「……ここで無言?まいいや……開けるよ?」 布袋の口をリボンで縛ったパッケージングを解いた中から、ビニールに包まれたチョコレート。 一つ一つ、少しずつ大きさが違う。それは微差だが、つまり。 「手作りだな?……うん。美味い。去年より……チョコレートだ」 「そのさ……全部実況するのやめない?」 一粒摘んで口に放り込み、彼が言う。彼女はその彼の発言に苦言を呈するわけだが。 「待って。去年よりって言った?」 「言葉のアヤだ。感想を伝えてなかったが……贈り物としては去年のも良かったよ。あの市販品そのものな包装は完璧だった」 「怜くんが言ったんだよ?毎年毎年手作りは重いって。だから私さ」
2 23/02/14(火)23:55:10 [2/3] No.1026657026
「だからって板チョコの形に固めて包装するか?結局手作りじゃないかアレ、そうだろ?味がだいぶ違った記憶がある」 「……もー!」 怜と呼ばれた男の子は態度を崩さない。去年、一昨年と記憶を遡りながら、渡されたチョコを一つずつ口に運ぶ。 「上手くなってるよ。味付けも……形も。この調子なら、他の料理だって」 「……うん」 ───彼女が刃物への恐怖心を克服し始めたのは最近のことだ。 チョコレートを毎年手作りで渡していたのは、つまり刃物を使わずに料理をする事が可能でもあるからだと、その事に彼はかなり前に気づいてはいたが。 「花奏ならできる。何でもだ。ウチの魔術に選ばれたんだから、それは───」 「怜くんもでしょ、それは」 適応魔術、というものを研究している家がある。 他の魔術師を踏み台にし、研究を食い物にする。『誰かよりも少しだけ上手く何かを為す』……適応の才能。単純な魔術回路よりも、むしろそれを問われる。 「まぁ……やってみるよ。お菓子は作ったことないけどさ」 「期待、してるね」 「何年分がいい?2年か?3年か?……8年?」
3 23/02/14(火)23:55:54 [3/3] No.1026657296
多くの人が傷ついて。 多くのものが壊れても。 残るものがある。それらは壊れたものを少しずつ抱えて、その先へ進んでいく。 「今年の分だけでいいよ。そんなに沢山食べられない」 「じゃあ、その分は来年だな」 多くの間違いの上に、一つ正解を重ねて。 日常は、どこかその先に続いていく。