23/01/30(月)00:38:37 頭をぶ... のスレッド詳細
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23/01/30(月)00:38:37 No.1020945683
頭をぶつけたら人格が入れ替わった。 そんな古典的な創作の展開があることを、ダイタクヘリオスのトレーナーは知らない。 だが。 「え、これマ? ウチら──」 「は……え? う、嘘、だろ……!? 俺たち──」 入れ替わってる!?──と。 自分と担当ウマ娘が置かれた状況について理解した時、開口一番に出てきた言葉は、まさしくお約束としか言いようのないものであった。
1 23/01/30(月)00:40:01 No.1020946134
その日のトレーナー室で行われたミーティングはつつがなく終わって、テンションを持て余したヘリオスはトレーナーへと駆け寄り。 またトレーナーも、ヘリオスとハイタッチを交わそうと胸元で手を構えてスタンバイ。 ここまではいつもと同じ流れだが──いつもと違っていたのは、トレーナー室の床がワックスをかけたばかりで滑りやすくなっていたこと。 ブレーキの効かない足場で勢いのままにヘリオスはトレーナーへと突っ込み、次の瞬間にはお互いの視界が暗転。 チカチカと幾つもの星が飛び交う中で瞼を開けば──そこには、自分の顔があった。 「うわっ! 何これめっちゃウケる!! トレぴの手ちょびゴツめ!? てかウチめっちゃカワイくね!? らびゅるしかなくね!?」 「ひゃ、ふあぁっ!?」 ──かと思えば怒涛の津波のような勢いで、『自分』に抱きしめられてつむじの匂いを嗅がれている。 右も左もわからない状況に置かれてしまったトレーナーだが──しかし自分と同じ顔をしている男がヘリオスそっくりの言動をしているというのは、羞恥心を呼び起こすには十分であり。 まずは目の前の自分を止めろ、と半ば思考停止していた脳みそを叩き起こした。
2 23/01/30(月)00:40:27 No.1020946278
「へ、ヘリオス! ちょっと待った!タンマ!」 「ん? トレぴサゲサゲな感じ? おけまるおけまる。じゃウチあっちでフェスってくんね」 「ふ、ふぅ、助かっ──って! そうでもなくて!」 トレーナーが制止の声を上げれば、ヘリオスは驚く程あっさりと両腕を離した。 そしてウマ娘の小さな身体で逞しい腕に抱かれる感覚──凡そこの世のほぼ全ての成人男性が体感したことのないであろう未知の体験の余韻を味わう暇もなく、トレーナーは部屋から出ようとしているヘリオスの手を掴んで引き留めた。 「お、落ち着こうヘリオス! まずは落ち着いて!」 「それな! トレぴテンパりすぎっしょ!」 「……確かに!」 マジウケんだけどー!と、部屋中に大きく響く成人男性の低めの声。 他に誰にもいなくて良かった、とヘリオスの身体でトレーナーは深々と溜息をついた。
3 23/01/30(月)00:40:55 No.1020946477
何度も深呼吸をして、一先ず冷静であろうと努めようとするトレーナー。それでも痛いくらいに跳ねる心臓は抑え切れず、顔色も晴れない。 くしゃくしゃで、今にも泣きそうな顔は、いつもの『ヘリオス』を知るものたちが見れば間違いなく振り向いて二度見することだろう。 「身体が、入れ替わった……んだよな?……俺たち……どうしよう、このまま戻れなかったら……」 「ん? とりままたゴチればいんじゃね? 多分戻るっしょ」 「……あ、そっか」 だがこんな状況に置いてもヘリオスは相変わらず平常心。どんなシチュエーションも楽しめてしまう彼女からすれば、この事態はむしろ新しい遊びの一つである。 そんなヘリオスを前にしては、慌てふためいていたトレーナーにも平常心が戻ってくる。むしろ、パニックになっていた自分に恥ずかしさすら覚えてくる。 「よ、よし! じゃあ、痛いかもしれないけどもう一回……!」 「じゃ、とりまフェスるしかないっしょ! ウチinトレぴボデーで! 」 「……は!? いや、ちょっと!?」
4 23/01/30(月)00:41:20 No.1020946659
しかし、ここでまた新たにすれ違い。 この状況を心の底から楽しんでいるヘリオスは、笑顔のままトレーナー室から駆け出す。 一方で、頭突きの衝撃に身構えていたトレーナーは、ヘリオスを引き留めるタイミングが一瞬遅れた。 「うわー! 全力で走ってんのに脚めっちゃおっそ! つらみ沢ぴえん丸過ぎて逆にアガるー!」 「……いや、アガんないって!」 トレーナー室を出た廊下の向こう側から聞こえてくる、パリピオーラに満ち溢れた『自分』の声。 ややこしい事になる前に早く引き留めないと──出遅れたトレーナーは慌ててヘリオスの後を追おうと駆け出す。 「ふぎゃっ!?」 そして、勢い良くトレーナー室のドアに顔面をぶつけた。
5 23/01/30(月)00:42:05 No.1020946925
「あいったぁ……そっか……俺、いまヘリオスの身体なんだった……」 涙目で赤くなった額をさする。 脳裏に過るのは初めて電動自転車に乗った時のこと。ペダルを踏む力以上に返ってくる推進力で背中を押される感覚。ヘリオスの後を追って駆け出すつもりが、勢いが付き過ぎた。軽く床を蹴っただけで、数mほど身体が前に飛んだ。 二十数年の人生をヒトの男性として生きてきたトレーナーの感覚に、ウマ娘の──それも今をときめくマイル王の肉体はオーバースペック過ぎたのである。 「……ふぅ……よし、今度は慎重に!」 だからといって、ヘリオスが戻って来るのを待つという選択肢は無い。 ゆっくりと、慎重に起き上がって。トレーナー室のドアから出て。 先程の感覚を思い出しながら、今度は吹っ飛んでいかないように、トレーナーはヘリオスの後を追い── 「うぎゃっ!?」 五体投地のような体勢で、廊下に身体を投げ出した。
6 23/01/30(月)00:42:59 No.1020947211
「うぅ……む~りぃ~……グラグラするぅ……」 ヨタヨタと壁に手をつきながら起き上がる。 ウマ娘とヒトの身体能力を意識したトレーナーの前に現れた新しい壁。それは物理的な体格差。 身長の高さ。手足の長さ。丸みを帯びた体格。本来の自分には無い、胸元で揺れる二つの柔らかい重り。腰の下から生えて忙しなく揺れる尻尾の動き。 何もかもが元の自分と違う。たった一歩を踏み出すだけで、元の自分との身体の違いを思い知らされる。トレーナーにヘリオスのような走りのセンスは無く、突然のハプニングで押し付けられたヘリオスの肉体は、トレーナーには持て余す他になかった。 「それに、なんか……いいニオイもするし……」 自分の──ヘリオスの髪から漂うトリートメントの香り。立ち止まって息を整えている内に嗅ぎ取ってしまったその匂いで、頬に熱が集まる。 ふと目についた校舎の窓ガラスに映るのは、紅潮した『ヘリオス』の顔。 間違いなく自分の身体ではなくて、上手く動かすこともできないのに、鏡を見ればそこに『自分』がいる。 まるで、自分という存在がヘリオスの中に飲み込まれていくような──
7 23/01/30(月)00:44:00 No.1020947532
「ヘリオス? どうしたんだい?」 「っ!! あ、な、なんでもない!?」 トレーナーの意識を引き戻したのは、通りかかったケイエスミラクルの呼び声。 川を渡っている途中で引き戻されたかのような、肩をいきなり押さえ付けられたかのような感覚にビクりとしながら、トレーナーは振り向いた。 「そうだ、ケイエスミラクル! ヘリオスを見なかった!?」 「え?……目の前に、いるけど?」 「あ、違っ……えっと……俺、じゃなかった、ウチの! ウチのトレーナー見なかった?」 「ん?……それなら、さっき校門の方に歩いて行ったけど。なんだか楽しそうだったよ?」 「マジか……! わかった! ありがとう!」 頬を軽く叩き、トレーナーは改めてヘリオスの後を追う。 壁に手を突きながら、ぎこちない動きだが、それでも早く元に戻らないと、と急いで歩き出す。
8 23/01/30(月)00:45:26 No.1020948015
「……待った、ヘリオス。きみ、変だ」 ──当然、ミラクルはそんな『ヘリオス』を放って置くことはできず、手を掴んで引き留めた。 「おでこも腫れてるし……歩き方も」 「あ、あ~……」 ミラクルの表情に普段のような微笑みはない。真剣に『ヘリオス』のことを心配して真っ直ぐな眼差しを向けている。 対してトレーナーはバツが悪く、目を泳がせる。 本当のことを言うか。実は自分はトレーナーで、ヘリオスと入れ替わっているのだと。少し迷って── 「じ、実はさっき頭ぶつけたっぽくて? でも、ほっとけば治る系?だから! 大丈夫だから、またね!」 「だめだ。放っておけないよ、それは」 ──誤魔化すための言い訳は、ミラクルの地雷を踏んだ。
9 23/01/30(月)00:45:58 No.1020948213
「君に万が一のことがあったら……いや、放っておけば万が一じゃなくなるかもしれない。それは、認められない」 自分は、大丈夫だから──そうやって無理矢理突き進んだ先に何が待ち受けているのか。 今は乗り越えたとはいえ、身を持ってその答えを知っているミラクルは、『ヘリオス』をこのまま見過ごすことはできない。 歩き方というあからさまなサインがあれば尚更だ。 「大丈夫! 大丈夫だってば!」 「だめだ。どうしてもって言うなら」 「っ!?」 『ヘリオス』の腰と膝の裏に腕を回し、その身体を抱き上げるミラクル。 所謂、お姫様抱っこである。 「無理矢理にでも連れて行くよ」
10 23/01/30(月)00:46:26 No.1020948385
ミラクルが『ヘリオス』を抱き抱えて行く先は学園の保健室。 当然、校門へと向かっている『トレーナー』からは離れていく。 (……ケイエスミラクル、こうやって間近で見ると睫毛長くて綺麗で……体温も低めで、なんか気持ち良くて、見惚れちゃう──じゃなくて!) 「なんで、こうなるのーーーーー!?」 その『ヘリオス』の叫びは、当然『トレーナー』には届かず。 「暴れないで。すぐ先生に診てもらうから」 ミラクルを止めることもできず。 「──」 唯一、その現場を見ていた通りすがりのアグネスデジタルも、気絶していたため聴くことは無かった──
11 23/01/30(月)00:47:16 No.1020948649
みたいな感じのトレヘリ入れ替わりネタが見たかった
12 23/01/30(月)00:47:49 No.1020948835
侵食スピードはやない?
13 23/01/30(月)00:48:39 No.1020949105
どうしてデジタルはこういう時吸い込まれるように轢かれてしまうん?