虹裏img歴史資料館

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23/01/29(日)23:58:47 大人に... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1675004327231.jpg 23/01/29(日)23:58:47 No.1020932355

大人になる。 誰でもいつかはそうなること。 自分もそうなるのだろう。 だけど、どんな大人になっているだろう。 その時の自分がどうなっているか。 周りに誰がいるか。 それは今ではわからない。 でもその時は必ず来る。 避けることはできない。

1 23/01/29(日)23:59:12 No.1020932521

11歳の頃。 レッドはタマムシシティを訪れていた。 「この辺かな…。 あの喫茶店は」 口コミを見て、行こうと思ってここまで来た。 コーヒーや料理が美味しいと評判なのだ。 苦いコーヒーは苦手だが、そういう人でも美味しく飲めるという噂もある。 これを気に飲んでみるのもいいかもしれない。 そう思ってレッドは歩くペースを上げていった。

2 23/01/29(日)23:59:50 No.1020932783

しばらく歩くと、目当ての店を見つけた。 「あった!」 手元の写真と店を見比べる。 確かに探していた店だ。 たどり着いた達成感もあり、急いで店に入る。 「いらっしゃいませ。何名様ですか?」 「あ、1人で」 出迎えた店員に答える。 当たり前だが自分より年上だ。 そして美人の女性だった。 「ではこちらにどうぞ」 彼女に席に案内され、それに従ってついていく。 「この席でお願いします」 2人用の席を示されて、そこにつく。

3 23/01/30(月)00:00:20 No.1020932995

「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」 そう言って女店員が離れていった。 「いやー、キレイだったなー」 それだけでもここに来た甲斐があった。 ボールの中の仲間たちが白い目で来るが気にしないことにする。 ふと周りを見回す。 それなりに客が入っていて、空の席もあまりなかった。 「どれにしようかなー」 メニューに目を通していると、また新しい客が入ってきた。 先程見た空席もその人が座って埋まった。 この分だと満席になるのは時間の問題だろう。

4 23/01/30(月)00:01:01 No.1020933232

そんなことを考えつつ、改めて何を注文するか考える。 「んーと、サンドイッチとのセットにするか」 それならコーヒーもついてくる。 サンドイッチが美味しいなら持ち帰りしてもいいかもしれない。 注文も決まったので呼び鈴を押して店員を呼ぶ。 少しした後店員が来た。 先程とは別の、男の店員で少し残念に思う。 「お待たせしました。 ご注文はお決まりですか?」 「これでお願いします」 メニューを指で刺して示す。 「分かりました。お待ちください」 簡素な受け応えの後、店員が去っていく。

5 23/01/30(月)00:01:19 No.1020933360

「お待たせしました。 こちらサンドイッチセットになります」 しばらく待つと、注文の品が届いた。 「いただきまーす」 早速サンドイッチを口にする。 美味い。 ふわふわのパンと、間に挟まったハムの弾力とレタスのシャキッとした歯応えや味のバランスがいい。 もう一切れ食べるとそちらは卵の白身の固さと黄身の柔らかさの差も程よい。 サンドイッチを食べたのは初めてではないが、この店の物はその中でも上位に入る。 評判通り、いい店だ。

6 23/01/30(月)00:01:39 No.1020933469

サンドイッチを上機嫌で食べていると、女店員がこちらに来た。 「申し訳ありません。 他のお客様が空いた席がないので相席をお願いしていいでしょうか」 「いいですよー」 特に迷わず答える。 誰が来ても別に困ることはない。 なので了承してどういう人が来るのか待つ。 かわいい女の子ならいいなと思っていたら、誰かが近づいてきた。 遠目で見てもかわいい女の子だ。 年齢も背丈もレッドとそうは変わらないだろう。 なのに雰囲気が大人びている。 ラッキーだとその時は思っていた。 だがその子が近づいていき、顔がわかると一気にそんな気がしなくなった。

7 23/01/30(月)00:02:24 No.1020933727

「レッド、こんにちは♡」 「げ、ブルー…」 苦手に思っている人物。 かつて自分を騙していいようにした者。 その当人、ブルーが前の席についた。 「相席ってお前かよ…」 先程相席を承諾したことを後悔した。 「誰が来るかくらいは聞いとくべきだったかな…」 「ひどーい。レッドはアタシが相席するって知ったら断るつもりだったの?」 「断らないかもしれないけど、せめて心の準備はしておきたかったよ…」 苦手だからといって相席を断って追い返すのは気が引ける。 それはそれとして、顔を合わせるなら覚悟くらいはしたかった。

8 23/01/30(月)00:03:13 No.1020933980

「レッドがアタシをそんなに邪険にするなんて、酷いわ…」 わざとらしくブルーが顔を手で覆う。 「そうなるくらいブルーに散々振り回されたんだけどな」 「オホホ、そんなこともあったわね」 あっさりと泣き真似をやめて、ブルーが悪戯っ子のような笑みを浮かべる。 「ブルーもこの店の評判を見て来たのか?」 「そうね。 満席みたいだから日を改めようと思ってたんだけど、 レッドがいたのに気づいたから相席してもらおーって」 「そういうことか…」

9 23/01/30(月)00:09:15 No.1020935924

そこまで予想してたとは。 改めてブルーは計算高いと思う。 「で、ブルーは何にするんだ?」 「そうね…」 と、ブルーがまだレッドが食べていないサンドイッチを取る。 そしてそのまま躊躇なく口にした。 「おい!それオレの!」 「うーん、美味しい! アタシもこれにしましょ。 レッドにはアタシが頼んだサンドイッチ分けるから許して?」 「まぁ、そういうことなら…」 食べられてそのままならともかく、最終的に帰ってくるのならいい。

10 23/01/30(月)00:13:42 No.1020937347

「これ返すわ」 ブルーがさっき一口食べたサンドイッチを突き返してきた。 「いやいいよ。 食べかけだしそれはそのまま食べてくれって」 「ふーん。アタシが口をつけたものは食べられないんだ」 「誰が相手でもそれが普通だって!」 ため息をつくと、喉を潤したくなった。 何か飲んで一息つきたい。 そう思ってコーヒーをそのまま飲む。

11 23/01/30(月)00:18:28 No.1020938973

書き込みをした人によって削除されました

12 23/01/30(月)00:19:01 No.1020939164

「にが…」 思わず言ってしまった。 苦い。 レッドの感想はそれにつきた。 前評判で褒められていたが、自分には既存のコーヒーと何が違うかよくわからない。 まだ自分にはブラックコーヒーは早かったか。 やむを得ず、砂糖とミルクを入れる。 「レッドってブラックコーヒー飲めないのね。 かわいい♡」 「そういうブルーはどうなんだよ!」 指摘された恥ずかしさからつい声のボリュームが上がる。 彼女の前で失態なんてするものではなかった。 こうしてからかいの材料にされてしまうのだから。

13 23/01/30(月)00:25:24 No.1020941309

「アタシは楽勝よ。 コーヒーくらいそのまま飲めるわー」 オホホと余裕のある笑いをしてこられた。 確かに彼女なら。 年齢よりも大人びている彼女ならそうなのかもしれない。 そうして話をした後ブルーが注文し、その品が届いた。 早速彼女がサンドイッチを食べる。 「やっぱり美味しい。 作りたてだからさっきのより美味しい気がするわ」 「そう思うならよかったよ。 オレのと同じの頼んでたからもし不味かったらオレのせいにしてくるかもって思ってたし」 「あらバレた?」 「マジか…」

14 23/01/30(月)00:31:16 No.1020943160

嫌な想像が当たっていた。 そのことに戦慄しつつ、レッドはふと気づく。 ブルーの手の動き。 右手はサンドイッチをとっている。 だがもう片方。 左手は何かを持っている。 砂糖の入ったスティックだ。 それをコーヒーに入れるのをレッドは見逃さなかった。 「やっぱりブルーだってブラックコーヒー飲めないじゃないか!」 「あ、あら。気づいた?」 珍しくブルーが慌てる。 見抜かれない自信があったのだろう。

15 23/01/30(月)00:34:32 No.1020944305

「レッドにお喋りしてそっちに気を引いて、その隙にって思ってたんだけど…。 まさか見破られちゃうなんて」 「オレだってわからなかったよ。 見つけたのはたまたまだ」 ため息をつくと、ブルーもコーヒーを口にした。 「結局、アタシもレッドもまだまだ子供なのね」 「そうだな。あれこれあったけど全然大人になれてないって思うよ」 「大人、ね」 ブルーが窓の外に目を向ける。 「どうした? 外に何かあるのか?」 「ううん。ただ、アタシたちの将来ってどうなるのかなって」 「将来…」

16 23/01/30(月)00:38:44 No.1020945726

自分たちの将来。 未来での自分。 そんなことはあまり考えたことがなかった。 「レッドもアタシもリーグ上位になって。 同じ図鑑所有者になれて。 そうなるなんてレッドと会う前のアタシは想像もしてなかった」 「オレも、ブルーと初めて会った頃はそうなるなんて思わなかったよ」 リーグ優勝くらいは夢見てはいた。 だけど、その近くにブルーがいるとは。 そんなことは予想だにしていなかった。 「案外、このままオレたちの縁も大人になるまで続いていくのかな」 「さあ?でももしかしてそうなるのかもしれないわ」

17 23/01/30(月)00:43:27 No.1020947351

ブルーがまたコーヒーを飲む。 外を見ながら、物憂げな顔で。 肩にかかる長い髪も手で払う。 同年代とは思えないほど、大人のような仕草。 だけど飲んでいるコーヒーは砂糖入りだ。 彼女だってまだ子供。 自分とそう変わらない。 そんな彼女が大人になる。 そうなるとどうなるのだろう。 落ち着いて名実共に大人の女になるのか。 それともこのまま小悪魔な女でいるのか。 「レッド、何か失礼なこと考えてない?」 「いや考えてないから!」 「そう?」

18 23/01/30(月)00:50:14 No.1020949671

心を読んだかのようなタイミングでの質問に動揺するが、誤魔化す。 「ブルーは、両親と再会できたらどうする?」 「…まだわからないわ。 全然行方もわからないし、ひょっとしたら再会できないのかもしれない」 ブルーが目を向けてくる。 決意に満ちた目を。 「でも、アタシは諦めない。 絶対、パパとママと会う。 それがアタシの過去との決着だから」 「…そっか」 その言葉を聞いて、思う。 彼女は強い。 辛い過去があっても前に進める。 その強い意志があれば、いつかは本当に両親と再会できるかもしれない。

19 23/01/30(月)00:56:07 No.1020951599

「それはそれとして、今回はレッドの奢りね?」 急に、ブルーの表情が変わった。 いつものように、こちらを振り回す小悪魔の顔に。 「なんでだよ! そっちが頼んだ分はそっちで出せよ!」 「男の子なんだから、女の子の前ではカッコつけてほしいなー」 レッドはさっき彼女に感心したことを後悔してきた。 「この後仲間のポケモンの分もサンドイッチ買って持ち帰りするんだから奢る余裕なんてないよ! うちには大食いのゴンだっているし!」 「そういう言い方は卑怯じゃない?」 「どっちがだよ!」 子供じみた言い合いがしばらく続いた。

20 23/01/30(月)01:00:34 No.1020952903

それから月日は経って。 20歳になった頃。 タマムシシティでレッドとブルーは顔を合わせた。 「よっ」 「うん」 お互い、軽く手を上げて簡単な挨拶を交わす。 「こんなところで奇遇ね。 レッドは何の用?」 「久しぶりに喫茶店に行きたくなってさ。 昔行っただろ?あの店」 「あ、アタシもそこ行こうと思ってたのよ。 ますます奇遇ね」 「そっか」 偶然とは重なるものかもしれない。 こういうことも、たまにはあるのだろう。

21 23/01/30(月)01:04:54 No.1020954167

「じゃ、せっかくだし2人で行きましょう。 今度こそレッドの奢りで♡」 「まだ諦めてないのか…」 「ダメ?」 可愛らしく、こちらを上目遣いで見てくる。 すっかり大人らしく成長した彼女だが、こうした仕草もハマっている。 「うーん、まいっか」 「ありがと!」 腕に絡みつかれる。 柔らかいものが押しつけられる。 慣れない感触に動揺しかけるが、なんとか平静を装った。

22 23/01/30(月)01:09:29 No.1020955293

目当ての店のあった場所につく。 だが、その光景は予想と異なっていた。 「あれ、なくなってる…」 店のあった場所は空き家になっていた。 看板もなく、人の気配もない。 長らく応援ありがとうございました、という今までの客に対しての感謝の言葉が書かれた紙がシャッターに貼られているだけだ。 「つぶれちゃってたのね…」 「最近行ってなかったから知らなかったな…」 2人で無念に思い合う。 知ってる店がなくなる寂しさ。 こうなるのならもっと行けばよかったのではという後悔も湧き上がる。

23 23/01/30(月)01:13:17 No.1020956276

「仕方ないか…。 オレは帰るけど、ブルーはどうする?」 ここにいても仕方ない。 そう切り替えてレッドは声をかける。 「アタシも行くわ。 レッドの家でコーヒーくらいは入れてあげる」 「いいのか?」 「もうコーヒー飲みたい気分だもの。 レッドだってそうでしょ?」 「確かにな…」 もう口の中がコーヒーを飲みたいと全力で訴えている。 今の自分ならばブラックコーヒーだって平気だ。 今はそれを飲みたい。

24 23/01/30(月)01:15:37 No.1020956925

「レッド」 「ん?」 隣に立つブルーが、つぶやく。 「レッドは、いなくならないでね」 「…ああ」 ブルーの手を握る。 自分はここにいる。 そう伝えるために。 未来でどうなるかはわからない。 だけど、今はここにいる。 これからも、そうしていたい。 彼女からも握り返された。 思いは伝わった。 そうだと信じて、一緒に歩き出した。

25 23/01/30(月)01:15:52 No.1020956991

以上です 閲覧ありがとうございました

26 23/01/30(月)01:17:44 No.1020957476

想定以上に昔レブルパートが長くなってしまいました その分現代パートが駆け足になってすみません

27 23/01/30(月)01:18:48 No.1020957749

>遠目で見てもかわいい女の子だ。 >年齢も背丈もレッドとそうは変わらないだろう。 >なのに雰囲気が大人びている。 >ラッキーだとその時は思っていた。 >だがその子が近づいていき、顔がわかると一気にそんな気がしなくなった。 >「レッド、こんにちは♡」 >「げ、ブルー…」 こういう認識するまでは超好みみたいなネタに弱い

28 23/01/30(月)01:23:39 No.1020959033

レッドは初対面であっさり色仕掛けにやられたり寝起きで目の前にいたら見惚れるくらいにはブルーの外見が好みっぽいからな…

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