ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
23/01/18(水)23:27:56 No.1016925486
「ファル子!大変だ!」 そう言ってトレーナー室に飛び込んできた彼、私のトレーナーさん。元々ちょっぴり落ち着きのない所はあったけど、凄い慌て様。どうしたんだろ。 「さっき電話で対談しないかって持ち掛けられたんだ!」 「対談…?雑誌の…?」 そうそうと頷きながら、若干むせ込むトレーナーさん。それくらいなら以前にもやったことあるケド、何なんだろこの慌てっぷり。気になっちゃうよ。 「対談なら前にもやったことあるでしょ?どうしてそんなに慌ててるの?」 「あ、ああ…それがな、その対談の相手、あの──さんなんだ!」 聞いたことある名前だった。だって、レースの世界にいるウマ娘なら誰しも憧れるような人だから。トレセン学園のOGで、娘さんも今現在学園に在籍している。まあファル子との関係で言えば友達のスズカちゃんのそのまた友達のスペちゃんのそのまた友達のキングちゃんといったくらい遠い関係だけどね。ほぼ他人。 「すっごい実績残してる人だよね!?……何でファル子と?」 「何でも、あちらさんが君のファンらしい。それで、一度話してみたいということで雑誌の方で企画が挙がったそうだ」
1 23/01/18(水)23:28:38 No.1016925749
「えぇー!すっごい光栄だよー!いいのかな?受けちゃって」 「受けよう受けよう!こんな機会滅多に無いぞ!ウマドルとしてこれを逃す手はないんじゃないか?」 「うん、そうだよね!よーし、準備しなきゃ!」 そんなこんなで、対談当日を迎えたわけで。 ─── 「うー…緊張してきたー…」 「あんなに準備したじゃないか。質問も回答も何パターンか用意して暗記もしただろ?」 「トレーナーさんは見てるだけでしょー?実際にお話するのはファル子なんだから。キングちゃんも変なこと言うし」 「何かあったのか?」 「普段話さないけどさ、お母様と会うんだから報告しとこうかなって挨拶に行ったの。今度雑誌でキングちゃんのお母さんと話すよーって。そしたらね」 ──『何があっても絶対私の名前は出さないでください』 「だってさ」
2 23/01/18(水)23:29:35 No.1016926096
「まあ、年頃だしね。思春期なんだよきっと」 なんて、トレーナーさんと雑談してたらいよいよ本番。 「スマートファルコンさん、入ってください」 スタッフさんに案内され、通された部屋の奥。とっても綺麗なウマ娘が待っていたの。歳は恐らく私より二回りくらい上なんだろうけど、そうは見えないくらい若々しくて、凛としていて、何処と無くキングちゃんと似ているようなそんなウマ娘。思わず深々と頭を下げて。 「スマートファルコンですっ!今日はよろしくお願いしまっしゅっ!」 いけない、緊張して噛んだ。 「ふふっ、そんなに固くならないで。今日は楽しくお話しましょう」 まあ優しい。なんて素敵な大人のウマ娘。こんな人がファル子のファンだって言うんだからウマドル冥利に尽きるよね。 「えへへ、お手柔らかにお願いしますね」 「ええ、こちらこそ。ファルコンさんはウマドルなのよね?」 「はい、そうなんです!走って歌って踊れて!皆にキラキラを届けられる!そんなウマ娘を目指して頑張ってます!」 「うふふ、そんな貴方のファンなのよ。曲も聴いたわ」
3 23/01/18(水)23:30:22 No.1016926403
「ほ、本当にファンなんですねファル…私の。……思い切って聞いちゃいますけど、どの曲が好きだったり……とか、あります?」 「そうねぇ、『全速!前身!ウマドルパワー!』かしら?」 そ、それは…!ファル子がウマドル活動初めて最初の方に出した曲!そんな前からのファン……ってことはないか。何にせよ気に入ってもらえたならこんなに嬉しいことはないよ。 「ちなみにどんな所がお気に入りなんです?」 「想いを寄せる殿方に全速力で突っ込むぞ!って気概を感じられるところかしらね?」 「ほうほう」 「私もね、恋はあの歌くらい全力じゃないとって思うの」 「へえへえ」 「想いを伝えるなら全力で走ってそのまま押し倒して私を丸ごと届けて大好きだよって耳元で囁くくらいやるべきだと思うのよ」 「ふむふむ……はい?」 「まあ要は逆ぴょいよね。私の娘もそれくらい度胸があればいいんだけど。ファルコンさんも恋愛はそれくらいやるべきだと考えるからあの歌を作ったんでしょう?」 「はいいいいい!?!?」 「あんな積極的な歌を作る人だもの。きっと強かな恋愛観を持ってる人だって期待してたのよ!」
4 23/01/18(水)23:30:54 No.1016926592
お手柔らかに言ったじゃないですか!お手柔らかにって言ったじゃないですか! 忘れていた!キングちゃんのお母さん、すっごい強い競走ウマ娘として有名だけど、もう一つ逸話があったの。それは、現役中に自分のトレーナーさんへの想いを遂げて、それどころか逆ぴょいして子供を作って、その子がお腹にいる時に出走したっていう逸話が!ファル子も含めて、自分のトレーナーさんに想いを寄せてる子は多い。そんなファル子達恋するウマ娘にとって、そっちの意味でもすっごい憧れる人なんだけど……うぅ、流石にそんな人と恋バナするのは難易度高すぎるよぉー! 「どうかしたかしら?」 「はいっ!いえっ!何でもありませぬっ!」 「そう?で、どうかしらファルコンさん。貴方も恋にはそれくらい積極的であるべきって思うわよね?」 「そっ、それはぁ…」 うぅ、話まだ続いてたぁ…どうしようどうしよう!?ファル子逆ぴょいどころかトレーナーさんと手を繋いだこともないのに!そんなファル子がこの人と恋バナなんて出来るわけないよ!というか今日は真面目な話想定してきたら完全に用意したレパートリーから外れちゃってるよー!
5 23/01/18(水)23:31:43 No.1016926914
チラ、と後ろのトレーナーさんに視線を送ると親指をグッと突き立て無言で頷いた。多分頑張れってことだと思う。他人事だと思って! どうしよう、助けてフラッシュさん…!無意識に親友の顔が思い浮かぶ。フラッシュさんならこんな時、何て言ってくれるだろう? ──『ファルコンさんにはそれくらいの積極性が必要だと思いますよ?』 ダメだ、今思い浮かべるべきではなかった。彼女は敵だ。違う子を思い浮かべよう。えーと、えーと、そうだ逃げシスの皆! ──『私には少し…難しいかもしれないです…』 ──『オーダー、“逆ぴょい”についての説明を求めます』 ──『イケイケどんどんよー!これでチョベリグね!』 ──『逆ぴょい?……まあお姉ちゃん的にはアリかもしれないの』 ダメだ、スズカちゃんとブルボンちゃんは論外だし、マルゼンさんは何言ってるか分からないしアイネスさんはどちらかと言うとあちらの手先だ。
6 23/01/18(水)23:32:15 No.1016927091
詰んだ…!そう思い天を仰ぎ見る。 「あの…ごめんなさい。さっきからずっと黙ってるけど、もしかしてあまり聞いてほしくないこと聞いちゃったかしら…?」 不安そうな声にハッとする。そうだ、この人は私のファンなんだ。ファンを不安にさせてどうするの、ウマドルでしょファル子は!うーーーーーっ!!!しゃいしゃいしゃーーーーい☆ そもそも他の子達の言葉を借りようとしてたのが間違いだった。ファンにはファル子自身の言葉で向き合うしかない! スーッと深呼吸して向き直る。 「あのっ!こんなこと言ったら幻滅されちゃうかもしれないんですけどっ!実はファル…私って恋人出来たことないんです!」 「あら、そうなの」 「ウマドル的に恋愛はNGですので!…でも、ウマドルの活動を満足するまでやって、引退ってなったらその…想いを伝えたいなって人はいるんです…自分でも思うんですけど私ってちょっぴり臆病で上手く言えるかは分からないんですけど…ってこんな話聞いても面白くないですよね!?ごめんなさい!」 「いいえ、続けてちょうだい」
7 23/01/18(水)23:32:54 No.1016927343
真剣な目でファル子の目を見つめ返すものだから、思わず息を飲んじゃった。というか両手を握られてちょっと怖かった。 「『全速!前身!ウマドルパワー!』を作ったのはこうあるべきというよりもこうありたいって願望の方が強いんです。だから私は貴方の言うような強い子じゃないんです…」 伏し目がちに語り終えて、チラと目線を上に向ける。かの人は思ったよりも晴れやかな顔をしていた。 「お話してくれてありがとう。ごめんなさいね、勝手なこと言って気を遣わせちゃったみたい。こうありたいって想いを込めて歌う、素晴らしいと思うわ」 「そ、そうですか…?」 「ええ。むしろこうあるべきと示すより、悩める子達と同じ目線になって、こうありたいと歌う方がウマドルの貴方らしいわ。それに私に臆せず自分の正直な想いを伝えてくれた所も素敵よ。ますますファンになりそう」 「え、えへへ、そうですかぁ?」 褒められて上機嫌。はっ、いけないいけない!まだ仕事中まだ仕事中… 「ただ、これだけは言わせてちょうだい。貴方の想い人、恐らく相当に鈍いから引退する前からちょいちょいアプローチはしといた方がいいわよ」
8 23/01/18(水)23:33:58 No.1016927711
振り向くと、先程のやり取り(想いを伝えたい人とか色々言った気がする)があったにも関わらず、ぽかんとこちらを見つめるトレーナーさん。……んもー!鈍ちん! 「でも、ファル…私に出来ますか?あの人何言ってもあんな感じで…」 「私に臆せず気持ちを伝えられた貴方なら大丈夫よ。貴方は十分、私が思った通りの強いウマ娘だったわ。それでも不安になったら、いつでも相談してちょうだい。私の手練手管、バッチリ教えてあげる」 ウィンクされて、思わず照れちゃう。大人って感じで、将来ファル子もこんな風になれるのかなぁって。 そんなこんなで対談は進んで、無事終わって。──さんとは連絡先まで交換してもらっちゃった。たくさんお世話になっちゃったし、後でキングちゃんにもお礼言っとこ。 帰り際、言われたアドバイスを思い出す。 ──貴方の想い人、恐らく相当に鈍いから引退する前からちょいちょいアプローチはしといた方がいいわよ。 「お疲れーファル子」 「ねぇ、トレーナーさん」 「…?どうかした?」 「大好きだよ☆」 「…?おう、俺も大好きだ」 「んもー!この鈍ちん!」
9 23/01/18(水)23:34:13 [s] No.1016927793
頑張るファル子が書きたかった
10 23/01/18(水)23:34:29 No.1016927894
>だって、レースの世界にいるウマ娘なら誰しも憧れるような人だから。トレセン学園のOGで、娘さんも今現在学園に在籍している。 き…来おった