ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
23/01/10(火)00:19:26 No.1013771242
泥の服装
1 23/01/10(火)00:40:20 [1/3] No.1013778806
『さすがに街中をあんな格好で歩かせるわけにはいかないでシょ。裸足だし』 ───そう言って服の某量販店へテアさんがルゥを連れ込んで30分ほど。 試着室のカーテンが開けられた時、思わず私は目を見張って小さく拍手してしまった。 「お~、カワイイ…!」 「ふふん、そうでシょう。素材がいいと味付け薄めでも格好つきまスね」 試着室の大鏡に映っていたルゥは先程とは見違える姿をしていた。 ニット生地の上にダウンジャケットを羽織り、下はレーススカート。靴はさっき別の店で適当に見繕ったスニーカー。 変色してしまう髪の毛を幅広のキャスケット帽が仕舞って目立たないようにしている。 着ぶくれせずすっきりとしながら暖かさも備えている。カジュアルすぎず、スポーティすぎない。甘辛な感じ。 気分はすっかり北海道へ旅行へやってきたお嬢さんだ。歩きやすい靴を履いて出かける準備万端、という茶目っ気を帯びている。 テアさんのズボラさを思えば意外なほどしっかり流行を押さえたコーディネートだった。 スカートの裾をふわりと棚引かせながら、ルゥはぼんやりと言った。 「すぅすぅするけど、足は動かしやすいね。でも、走る時はちょっと邪魔かも」
2 23/01/10(火)00:40:30 [2/3] No.1013778873
「下にこっそりズボン履いてまスし、咄嗟の時は脱いじゃえばいいんでスよ。腰のところで外せるようにできてまスから」 「そっかぁ」 相変わらず言葉からはいまいち感情が伝わりにくいが、なんとなく嫌がってはいないのは伝わってくる。 やり遂げた顔で腕組みをしてルゥを見つめているテアさんについ私は尋ねていた。 「驚きました。テアさんにこんな才能があったなんて」 「ああ、これは元から持ってたセンスではないでスよ。勉強したんでス」 「勉強…って、服のコーディネートをですか?テアさんが?」 こくりと頷くテアさん。ますます意外だ。研究一直線でファッション以外には興味がない、というタイプかと勝手に思っていた。 「わけあって美術を学ぶ機会がありまシてね。その一環でこういうのも。結構面白かったでスよ」 「そうだったんですか…」 よく考えればこの人の服装もシンプルだけどちゃんとしたファッションになっている。ちゃんと知識はあったのだ。 (このまま着ていくと言ったら一瞬変な顔をされたが)レジで会計をして外に出る。 自動ドアをくぐると函館の凍てつく空気が肌を撫でる。テアさんと外に出た私はルゥがついてきてないのに気づいた。
3 23/01/10(火)00:40:42 [3/3] No.1013778939
「ルゥ?」 店の出入り口近くで新しい装いのルゥは立ち止まり、ジャケットの襟を正している。 やがてこちらを向いたルゥは帽子の鍔を摘んで位置を整えながら、きょとんと小さく首を傾げた。 「…変な感じ。服を変えて外に出ただけなのに、なんだか、ふわふわする」 ルゥの表情が変わることはない。冬の青空に似た瞳の色がじっとこっちを見つめている。 でも私の頬は自然と緩んでいた。───キャスケット帽の端、僅かに露出している髪が薄っすらと黄色に染まっている。 「良かったね、ルゥ」 「良かった?…ん。分からない。分からない、けど」 ぱちぱち、と瞬く瞼。一瞬だけ内面を見つめるためにルゥの視線が逸れ、そしてまっすぐ私を見た。 「悪くない、ね」 それはこっちの台詞だ。私の胸中には温かいものが広がっていた。ルゥがそういうふうに感じてくれたということについ微笑んでしまう。 「…さて、では急ぎまシょうか。いつまでもあんまりのんびりしてはいられまセんし」 テアさんはそう言い残して歩いて行く。慌てた私はルゥに向けて手を伸ばした。 「行こう、ルゥ!」 伸ばした指に伝わるルゥの指先の体温。夜が来るまでに目的地へ着かなくては───
4 23/01/10(火)00:46:35 No.1013780832
助かる
5 23/01/10(火)00:47:51 No.1013781259
助かる これで呼吸ができる
6 23/01/10(火)00:58:30 No.1013784472
ひょっとしてこの愉快な仲間たちかなりエモいな?