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23/01/07(土)01:14:42 泥のは... のスレッド詳細

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23/01/07(土)01:14:42 No.1012536766

泥のはなきんの深夜

1 23/01/07(土)01:16:56 No.1012537372

泥の北欧

2 <a href="mailto:1/4">23/01/07(土)01:53:21</a> [1/4] No.1012545954

───執行者の役職を拝命するようになって様々な魔術師に出会うようになったが、本物の貴族は桁が違うとサムナは毎度思う。 この函館の地に派遣された魔術師はれっきとした調査団ではあるものの、常に団体行動をしているわけではない。 チームとしての纏まりはあっても宿泊施設などはそれぞれが用意している。ビジネスライクな関係だ。 となると安上がりに済ませるような魔術師がいる一方、『こういう』魔術師もいるわけだ。 「飲み物は如何かしら?シャンパンにワインに…ノンアルコールも揃っていますけれど」 「いえ、お構いなく。話が済めばすぐに次の用事がありますので」 やんわりと仕草でサムナは断った。座席のクッションは舌を巻くほど座り心地が良い。車内というよりはホテルのスイートルームだ。 あらそう、と淡白に返事を返したのは対面に座る美女だった。副詞として超をつけるだけでは足りないくらいの。 手足が長い。小顔はすっきりと整っている。艶やかな黒髪は最高級の生糸のようで、束ねず無造作に流しているのが何よりも似合っている。 並大抵の美人ではない。サムナでさえ軽く息を呑むほどの造形美。東洋人としての美麗の粋を極めたような女だ。

3 <a href="mailto:2/4">23/01/07(土)01:53:32</a> [2/4] No.1012545998

動物科の重鎮、李家の当主。李梓萱。そんな女が足を組んで乗っていると、この豪奢なリムジンの方が圧倒されているかのようだった。 「しかし…凄い車ですね。今回のために用意したんですか?」 「ええ、お父様が張り切ってしまって。子離れできない困った親なのです。  とはいえ魔術的な加工も施された一種の装甲車のようなものに仕上がっていますから、意地を張らずにいっそ使い倒そうかと」 でしょうね、とサムナは同意した。乗り込むときからぷんぷん臭った。 車両へ何層にも固められた強固な防備の数々。装甲車、という例えは伊達ではない。一見華奢な外見でありながら砲弾の着弾さえ耐えよう。 時計塔の大貴族というのは資産もとんでもないのだ。こんな凄まじく高価そうなものをたった一度の機会のためにポンと用意してしまう。 車はゆっくりと函館の幹線道路を流していた。車窓の景色の変化をちらりと見遣ったサムナは視線を戻すと本題に入った。 「では早速ですが、進捗状況を教えていただけますか。本格的な調査と捜索を開始する前に各々の現状を聞いて回っているのです」 そう口にしたサムナの耳にぴりぴりとノイズが走る。すぐに音の発生源は特定できた。

4 <a href="mailto:3/4">23/01/07(土)01:53:42</a> [3/4] No.1012546037

リムジンの車内をごく小さな生き物が飛んでいる。その羽音だ。 豆粒ほどのその生き物はくるくると円を描くように飛んだあと、梓萱が伸ばした人差し指の先端に止まった。 蜜蜂だ。魔術師の使い魔としてはあまりにも初歩的なその動物は、しかし李家の魔術にとっては真髄とも言うべき生物だった。 蜜蜂を見つめる梓萱の静謐な眼差しはまるでその向こうに大いなる深淵を見出しているかのようだった。 「この地の霊脈にはこの子たちを取り付かせました。収穫は始めさせていますから、2日もすれば手足が千切れたくらいのことなら問題なく癒せます。  ああ、情報収集程度のことなら今すぐにでも。もっとも、まだ聖堂教会の方たちも大きくは動いていないようですが」 「なるほど」 頷くサムナ。内心では実に感心していた。 この女は女王蜂なのだ。1匹や2匹操るくらいなら駆け出しの魔術師でも難なくこなせるが、多くて数万匹となると話は全く違う。 癒や手であり、富の運び手。あらゆる神話に語り継がれてきた神秘としての蜜蜂の有り様に特化したのが李家の魔術だった。 函館の各地に働き蜂たちを放っているだろうその女がまだ事は起きていないというならそうなのだろう。

5 <a href="mailto:4/4">23/01/07(土)01:53:53</a> [4/4] No.1012546078

「おそらく近日中に事態は流動を始めます。兆候があればどうか速やかに教えてください。  あなたはバックアップであり、矢面に立つのは俺たちの仕事。聖堂教会や現地の組織が噛んでいる以上、一筋縄では行きません」 「弁えています。元より自らが戦闘にも長けた魔術師であるという奢りはありません。よしなに」 大事そうに蜜蜂を手のひらで包み込んだ梓萱が厳かに瞳を伏せて同意を示した。 まったく、ほっとする。法政科を登竜門の過程とする貴族の魔術師は多いが、そういう者には一定数『自分は現場でも一流である』と勘違いしているタイプがいる。そういう意味では梓萱は物分かりが良かった。 …そこまでは良かったのだが、連絡の方法ですがと懐から取り出した携帯端末を見て梓萱がぎくりと表情を強張らせたあたりでサムナの頭の中に黄色信号が灯る。 「できればこういったもので連絡を取り合いたいのですが…?」 「あの…その、使い魔を寄越すのではいけませんか?やはり魔術師たるもの、科学に寄りすぎるのはどうかと…」 ちらちらと余所見と凝視を繰り返す視線。嫌悪感というよりは苦手意識がありありと伝わってくる態度だった。サムナは小さく溜息を付いた。

6 <a href="mailto:1/2">23/01/07(土)02:22:04</a> [1/2] No.1012552367

「この仕事の嫌な所は…」 ヨーロッパ某所、ヴァルカン浄化騎士団の夜営地。仮設テントの前の薪で騎士団長代理、玖導日向は身内にだけ見せるアンニュイな表情で溜め息をつく。 今回の任務はこの近辺に潜み、病をバラ撒いている死徒の討伐。しかし、一向に拠点が見付からず捜索は既に8日を越えていた。 「主への献身が嫌なんですか?」 その表情を見てピクリと眉をひくつかせたのは所謂お目付け役として日向に付けられたアリアナ・ピッコロだった。 目を細め、日向に冷ややかな視線を送る。 「待ちたまえ、愚痴くらい言わせなさいよ。 そう嫌なところは年末年始祝祭日関係なく仕事になるところだ」 日向はアリアナの視線に一瞬嫌そうに口元を歪めたが、すぐまぁ待てとでも言いたげに右手を突きだしアリアナの言葉を遮ると話を続ける。 「主も世界を作って7日目には休んだ。これは7連勤以上はしては行けないという思し召しさ」 「…そうでしょうか?」 日向がそれほど信心深くない事は知っているが聖書の一節を出されてはアリアナは何も言えない。それを知ってか知らずか日向は上機嫌にマグカップのコーヒーを口にする。 「そうさ、聖書にもそう書いてある」

7 <a href="mailto:2/2">23/01/07(土)02:22:31</a> [2/2] No.1012552465

「人々を苦しめ主の威光を乏してようとする邪なるもの達を浄化するのに休みなど…」 訂正。団長代理は知っていて聖書の一節を取り上げたらしい。少しイラっと来たアリアナは釘を刺さねばならないと長い説教を始めようとした。 「団長代理!」 夜の闇を裂くような叫びが辺りに響く。 「ここにいる!何か!」 日向の返答を聞き、夜営地に飛び込むように駆け込んできた別の団員が日向に走り寄る。 「見つけました!この辺りに病をバラ撒いていた死徒の巣です!」 団員の言葉に日向の眼の色が変わる。玖導日向から灰塵騎士へと。先程の緩やかなそれとは違う鋭い視線。 「出れるか?」と言わんばかりの戦意に満ちた目にアリアナは傍らのドーンブリンガーを握り頷く。 「何時でも」 「結構だ、中隊対BC兵器装備!10分後に出るぞ!」 アリアナの返事を待たずに立ち上がると日向は夜営地全体に聞こえるように叫んだ。灰塵騎士玖導日向。ぬるま湯かと思えば煮えたぎるマグマのような……この人は本当に良くわからない。

8 23/01/07(土)02:25:30 No.1012553027

SSがいっぱい来た こんな時間に

9 23/01/07(土)02:27:46 No.1012553482

SSは常に深夜にやってくるのだ

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