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23/01/05(木)17:12:45  2173... のスレッド詳細

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23/01/05(木)17:12:45 No.1012031476

 2173年9月某日――。  夏はすでに終わっていた。日が暮れるとオルカはやや肌寒い夜を迎えた。午後八時ごろ、オルカの左舷デッキ展望廊下は夜の人出で賑わっていた。あすは上陸日という高揚でカフェもバーも満員で、制服の襟もとをゆるめた隊員たちがぞろぞろ歩いていた。  この人混みの中で、突然一目でメイドとわかる黒と白のエプロンドレスを着たバイオロイドが乱闘をはじめた。 「ねえさん、往生せいや!」

1 23/01/05(木)17:13:00 No.1012031523

「ぎにゃー!」  口から薄みどり色の泡をふいて、CSペロが倒れた。廊下はにわかに騒然となった。  ペロの口にミントミートパイをねじ込んだ下手人は艦首方向へ逃げた。通行人たちをなぎ倒さんばかりの走り方である。八十メートルばかりを逃げたが、さしも剽悍な犯人も、通報を聞いて駆けつけたランパートを振り払うことはできなかった。取り押さえられたのはハチコ893という名の、一人の新参の隊員であった。  ミントの香り立ちこめるこの事件は、しかしオルカ史上最大の司令官抗争事件の一つである「広島わんこ組戦争」の長いフィルムの中でのほんの一コマにすぎない。

2 23/01/05(木)17:20:44 No.1012033366

ペロロペロ?

3 23/01/05(木)17:25:52 No.1012034623

 もとより、司令官をめぐる争いには区切りというものがつけ難い。極論すれば司令官がそこにいる限り、その寵を奪いあう戦いはつねに発生している。しかし広島わんこ組戦争は、このハチコ893という一人のバイオロイドの乗船から下船までという明確な期間をもっている点において、きわだった特質をそなえていた。それゆえ、この一連の事件を俯瞰して記録にしたためておくことは。後世同じような事態が起きた時のために益するところ大であろう。  この世の中に争いならざるものはないという。メイド達の戦いも、畢竟は人間のなかの戦いの一つであり、われわれの心の問題の一つでもありうるのである。  人はみな自由であるが、人には人をピョンテする自由はなく、ましてや人にピョンテされる自由もない。

4 23/01/05(木)17:25:58 No.1012034651

みにゃあん!にゃん!

5 23/01/05(木)17:26:29 No.1012034789

 カゴシマからオオサカへ、そしてナゴヤ、ヨコハマへと、ホンシュウ海岸ぞいに北上していったオルカは、その途上で何度か上陸作戦を行い、新たな拠点開設に適した土地を探しつつ、生存しているバイオロイドがいれば拾い上げていった。  城壁のハチコ893も、そうした合流組の一人であった。かつてヒロシマと呼ばれた地域で、小規模なバイオロイド抵抗軍の手によって復元された彼女は、その組織が壊滅、離散してからもこの土地を離れず、ほうぼうを転々として戦い、逃げ暮らしていた。そこへ、オルカがやって来たのである。 「皆さんが来てくれんかったら、のたれ死ぬのを待つだけでしたけん」  土地の訛りをインストールされた口調は、荒っぽいがふしぎと温かみがあった。ハチコ型らしい実直で人なつこい性格のおかげもあって、すぐにコンパニオンの姉妹達から受け入れられた893は、配属先の拠点が決まるまでのあいだ、オルカのコンパニオン部隊の見習いとしてはたらくことになった。

6 23/01/05(木)17:26:42 No.1012034858

 その日、ハチコ893は司令官の身辺警護についていた。もちろん一人ではなく、先輩であるオルカのハチコ185がいっしょである。この185のことを893は「あねご」と呼んで、どこに行くにもついていくほどしたっていた。  執務室は、オルカの中でももっとも厳重に装甲された区画にある。そこで何かが起こることなど万に一つもないのだが、その万に一つをそなえるのがコンパニオンの役目である。書類仕事をしている司令官のうしろに、邪魔にならないよう二人がひかえていると、ドアをノックする者があった。 「司令官、さんぽに行きませんか!」  シティガードのケルベロスである。執務中なのだから、散歩になど出られるわけはない。それを承知で、ただ司令官にじゃれつきに来たのだ。 「あーとーでー」 「えー」

7 23/01/05(木)17:26:57 No.1012034929

 司令官の脚にからまり付き、ひざに頬をすりつけるケルベロスを、ハチコ185がうらやましげに見ている。それを、893は見逃さなかった。 「すいませんが、いま護衛中ですけえ」  893が一歩踏み出すと、ケルベロスはぴょんと顔を上げて893の方を見た。しかし、ひざを抱いた手は離さない。  司令官の脚にからまって甘えるのは、じつはハチコにとっても、護衛中の貴重な癒しであり、役得であった。仕事中の主人の足元、それもいい匂いのする使い込まれた革靴の足元というのは、犬にとっては垂涎ともいうべき理想の落ち着きどころのひとつである。それをこうまであっさり横取りされては、黙っているわけにいかぬ。新参の自分ならまだしも。敬愛するあねごの縄張りがおかされたのである。  仲間思いで一本気で、火が付いたら止まらない荒々しさをもつ、ハチコ893は生粋の広島ものであった。

8 23/01/05(木)17:27:15 No.1012035007

「どいてくれませんかのう」  いっそう低い声をもういちど出すと、うしろからハチコ185が心配そうに服のすそを引いた。 「ケルベロスは友達じゃけん。乱暴なのはいかんよ」  根が単純なハチコ185はすっかり広島弁がうつっていた。 「ほうじゃいうても、あねご、舐められちゃいかんですけえ」  ここに至って、ケルベロスもようやく空気の緊迫したのに気づいた。おろおろしている185と、きびしい顔をしている893の顔を交互に見上げる。  二対一である。すこし不満げな顔をしたものの、ケルベロスは立ち上がり、すごすごと帰っていった。尾があったら巻いているのが見えたであろう。むふん、と893が得意げに鼻を鳴らした。  ハチコは少し申し訳なさそうな顔で友達を見送ったものの、最後には893と二人、司令官の両脚をわけあって仲良く丸くなったのだった。

9 23/01/05(木)17:27:36 No.1012035097

 しかし、ケルベロスは単に引き下がったわけではなかった。翌日、またしても執務室へやってきた彼女は、船務班にいる四人のケルベロスを連れていたのである。  オルカ艦内にいるハチコは185と893の二人だけだ。S級とA級のちがいである。五人そろって司令官のいすの下へもぐり込もうとするケルベロスに、185もさすがに手を出す。 「お仕事の邪魔ですけえ!」 「邪魔はしませんもん!」 「わんわんわん!」 「がうがうがう!」  しかし、勝負はつかなかった。なんとか割り込もうとしてみる二人だが、さすがに五対二では勝てない。ひざから下をもみくちゃにされた司令官は仕事にならず、残業する羽目になった。

10 23/01/05(木)17:27:51 No.1012035167

 893も、このままでは引っ込まなかった。むこうが数でくるならば、こちらも助っ人をたのめばよいのである。 「姐さん、ひとつ力(りき)を貸してもらえませんかいのう」 「なんかわかんないけど、いいよ」  その翌日のコンパニオンの警備は、ハチコ二人にフェンリルを加えた三人体制であった。しかも、フェンリルは最初からいすの下に入って、司令官の両脚をがっちりと抱き込んでいる。 「う~~~………!」  五人がかりといえども、SS級のそれも狼が相手では分が悪い。本物の犬のように顔中くしゃくしゃにして唸っていた五人のケルベロスは、いっせいに司令官室を飛び出した。  ハチコ達が勝利を確信したのもつかの間、十分もしないうちにかれらは戻ってきた。一人が一体ずつのポップヘッドを連れている。 「何やってるんだい、君達は?」 「いいから協力しーてー!」

11 23/01/05(木)17:28:23 No.1012035317

 執務室はぎゅうぎゅう詰めである。垂れ耳のようなマニピュレーターを左右にくっつけた大きな頭が近づくと、フェンリルが明らかにひるんだ。  実はこのフェンリル、電撃が嫌いであった。かつてどこかの個体が、主人に苛酷な躾を受けた記憶がモジュールに混ざっていたらしい。そのため電撃攻撃を得意とする相手には、若干ながら苦手意識がある。  それを見逃すケルベロスではなかった。五体のポップヘッドを前面に押し立てて、とうとうフェンリルを司令官の机の下から押し出すことに成功した。 「やったー!」  当初の目的が何であったかもすっかり忘れ、五人で手を打ち合わせるケルベロス達。だが一方、無理に連れてこられたポップヘッドたちは冷静だった。 「事情はおおむね想像がついたけど、もうちょっと平和的にやれないものかね」 「司令官だって、仕事にならなくて困っているじゃないか」

12 23/01/05(木)17:28:36 No.1012035366

「だいたい司令官の脚は二本しかないんだよ。そんなに大勢で群がっても仕方ないだろう」 「くじ引きでもして、順番に独占したらどうだい?」 「!」  この最後の提案は、ケルベロスのみならずハチコたちとフェンリルの心もとらえた。三対の耳と、五対のおさげが一斉にぴょんと跳ねた。  司令官の足元でまるまりたい犬系バイオロイド同盟、通称「わんこ同盟」は、このようにして結成されたのである。  司令官をめぐる犬系バイオロイドどうしの争いは平和裏に治まり、秩序がもたらされた。  しかし、この平和をにがにがしく見ている者がいた。CSペロである。

13 23/01/05(木)17:30:42 No.1012035892

長くなったので続き fu1794209.txt 年をまたいじゃったけどだいぶ前に役に立たないwikiの方でリクがあった わんこ組による仁義なき司令官争奪戦です

14 23/01/05(木)17:34:31 No.1012036867

あと去年までの怪文書を下記にまとめました MATOME_2022_0190.zip 今年もよろしくお願いいたします

15 23/01/05(木)17:35:00 No.1012036987

ことしもよろしくぬ

16 23/01/05(木)17:36:52 No.1012037507

オルカハチコが広島弁に染められてるのは想像しやすい…

17 23/01/05(木)17:42:52 No.1012039106

たまに見かけては楽しんでるから今年もよろしくお願い申し上げる

18 23/01/05(木)17:45:34 No.1012039905

最初レアおばさんを山守義雄ポジにするつもりだったけど さすがにひどすぎたのでやめたことをご報告します あとこれ書くために飯干晃一の原作版『仁義なき戦い』を読んだけどめちゃくちゃ面白かった

19 23/01/05(木)17:45:44 No.1012039944

ぬ!あけおめことよろぬ!

20 23/01/05(木)17:54:51 No.1012042558

長姉は苦労が多くて大変だな… 動物DNAないし発情期と縁がないからブラックリリスなら安心!

21 23/01/05(木)17:55:19 No.1012042665

冒頭のそうはならんやろのオンパレードでダメだった ポップヘッドが五機も入る執務室広いな!あれ結構でかいんだぞ!

22 23/01/05(木)17:55:55 No.1012042833

>あとこれ書くために飯干晃一の原作版『仁義なき戦い』を読んだけどめちゃくちゃ面白かった 取材してて偉いな…。z

23 23/01/05(木)18:04:09 No.1012045184

オルカ冥土戦争…

24 23/01/05(木)18:26:56 No.1012051987

>ペロロペロ? しらんぬ。

25 23/01/05(木)18:29:47 No.1012052918

むう…獣の数字893…

26 23/01/05(木)18:33:56 No.1012054207

>オルカハチコが広島弁に染められてるのは想像しやすい… レアまで広島弁になってるところでダメだった

27 23/01/05(木)18:42:05 No.1012056780

指揮官の妻たち

28 23/01/05(木)18:42:26 No.1012056889

>指揮官の妻たち 抗争 勃発

29 23/01/05(木)18:48:23 No.1012058673

犬系バイオロイド多いけどまだ増えるんだよな…

30 23/01/05(木)18:49:50 No.1012059110

>指揮官の妻たち しーれーいーかーんー!!

31 23/01/05(木)18:56:14 No.1012061117

素晴らしい

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