23/01/01(日)07:07:18 大人に... のスレッド詳細
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23/01/01(日)07:07:18 No.1010450972
大人になると節句の催しが億劫になるものである 某副会長を始めとして自主性の塊とも言えるウマ娘が主導する行事は多い だが逆にそういった要因無しに祝う気になれないのがまた老いなのだろう いつも通り早く起きて、昨夜の家事の仕上げをする いつもより静かな学園なら多少は作業がはかどったりするのだろうか 「そんなあなたに、初マーちゃんのお届けですよ」 「こりゃ演技のいいことで。あけましておめでとう」 「おめでとうございます。……何か、作ってるのですか?」 行儀よく訪ねてきた福の神は、お玉を立てられた鍋をのぞき込む ラフな格好の男はそれに火をつけてゆっくりと煮込み始めた
1 23/01/01(日)07:07:37 No.1010450990
「これが俺のおせちだよ」 「お、お正月からカレーですか?それにおせちの、お、の字も無いのでは」 困惑の色を隠せない姿は珍しいのか、トレーナーは口を抑えて軽く笑う 景気のよい初笑いの例と言わんばかりに彼は高説を垂れ始めた 「マーちゃん。おせち、ってなんだと思う?」 「縁起物です。まめまめしく、子沢山で、腰が曲がるまで、細く長く生きるのです」 「最後は微妙にずれてるね。まあそれ抜きなら100点か」 「えっへん」 「でもそれだけじゃない。というより、それは後付けだって構わないんだ」 「……ふむ?」 鍋の中でルウがくらくらと泡を吹く それをゆっくりとかき混ぜながら、男はまた語り出す
2 23/01/01(日)07:07:56 No.1010451012
「おせちってのはね、年末忙しい中に日持ちするものを仕込んでおいて、年明けの明るいムードの中でみんながぐうたらしながら食べられるように作られたんだよ」 「ほほう。だから煮豆や数の子なんですね」 「甘くしたり、煮付けたりすれば腐りにくいからね。そう考えると、ほら」 「カレーも、おせち、と」 カレーは香辛料を多分に含むため、雑菌が増殖しにくい とはいえたかが知れているので長く食べるなら冷蔵するに越したことはない 「こうして多めに作っといて、三ヶ日の間くらいは飯の心配せずに過ごそうってことさ」 「ふむ。ですが、それでは足りませんね」 「何が?」 「ゲン担ぎです。おせちと言い張るからには、その縁起の良さを示してもらいましょう」 「いいよ」
3 23/01/01(日)07:08:06 No.1010451030
こうしてカレーはおせち論争が始まった 小さめの器に炊き立ての米をよそうと、日の光を受けてきらきらと湯気まで光る そこにとろりと煮込んだカレーをかけると、反射の具合からまるで黄金のような輝きを放つ それはさながら、ご来光を受ける富士の峰のようでもあり─── 「どうよ。なかなか映えるでしょ」 「むむむ……マーちゃんのあるべきお正月像に50ダメージ……」 「それどのくらい?」 「致命傷を胸のペンダントで弾くくらい、でしょうか」 「紙一重だったなー」
4 23/01/01(日)07:08:57 No.1010451093
スプーンを構え、改めてブツを眺める 具は少ない。目立つものは鶏肉くらいのシンプルなものだ その代わりに、立ちのぼる香りはどうしようもなく顎から涎を染み出させる 「た、食べてもいいですか……?」 「食べる食べないで勝負してるわけじゃないんじゃない?」 「それもそうですね。いただきます」 小さく、細かく、分けた米とルウを何度も、何度も口へ運ぶ それを愛おし気に眺めながら、トレーナーは根拠を述べる
5 23/01/01(日)07:09:16 No.1010451111
「まず鶏肉だけど、これは言うまでもなく縁起物だね。日の出とも親和性が高いし」 「無論ですね」 「あと使ってるのは玉ねぎだけだけど……」 「それは、少し怪しいのでは?」 「なぜ?」 塩と胡椒で付け置いたため、むね肉であっても歯切れがよく旨い それをしっかり焦がして香りを付けてあり、もはやそれは単なる具材とは言えない存在感を持っていた こくん、と口の中の物を飲み込んだ彼女の口を、男がティッシュで拭う 「玉ねぎは、切ったら涙が出ます。涙を流すのが縁起物ですか?」 「たしかにそうだけど、それは切った時期が反転させるんだ」 「時期?」
6 23/01/01(日)07:09:47 No.1010451147
「それは去年切った玉ねぎ、つまり涙は切って去年に置いてきた、ってことさ」 「なるほど……なるほど?」 日本に根付くケガレ思想 それを払うために大掃除をし、使った注連縄は焚き上げられる 玉ねぎがそれと関連した歴史は全くないが、自信満々に言えば通るものである 「だって言い伝えなんてそんなもんだろう。今は夜に爪を切っても笛を吹いても何も起こらないからね」 「なんだか釈然としません。ごちそうさまでした」 「米粒一つ残さず食べてくれて嬉しいよ。これ、未開封だからよければ使って」 出張先から持ち帰ってきたリネンの歯ブラシを渡し、彼女を洗面台へ促す その間に食器を片付けながら、レンジで自分の分の餅を作る
7 23/01/01(日)07:10:15 No.1010451170
「ああ、あと香辛料は大体縁起物さ。匂いは魔を祓うからね」 「───。ふぅ。それなら、結局口をゆすぐのでは意味が無いのでは?」 「うーん……それは縁起以前のエチケットの問題かな」 玄関の戸を開けると、日はちょうど影になるところまで登っていた そういえば、何故彼女はこんな早朝から訪ねてきたのか聞いていない 「これから実家に帰るので。その前にご挨拶をと思いました」 「それはまあご丁寧に。俺はずっとこっちにいるから、ゆっくりしておいで」 「はい。それでは、今年もよろしくお願いします」 ぽくぽくと歩いていく姿を校門まで見送り、そこで彼女と別れた 振り返れば太陽はカレーに負けず輝いていて 流石におせちとカレーを混同するのは伝統に失礼ではないかと、今更ながら思うのだった
8 <a href="mailto:昨年のは0199">23/01/01(日)07:11:10</a> [昨年のは0199] No.1010451232
7割くらいは実話です 今年もよろしくお願いします
9 23/01/01(日)07:12:07 No.1010451280
新年から節句スを催さなくてよかった
10 23/01/01(日)07:12:58 No.1010451334
>7割くらいは実話です マーチャンは実在した…?
11 23/01/01(日)07:19:33 No.1010451735
> >7割くらいは実話です >マーチャンは実在した…? 見えないのか
12 23/01/01(日)07:21:57 No.1010451897
カレーとかいう謎の食べ物が3割の方
13 23/01/01(日)07:31:56 No.1010452519
>「こりゃ演技のいいことで 演技だったのかマートレ…
14 23/01/01(日)07:53:48 No.1010454131
カレーはおせちに飽きたらやろがい
15 23/01/01(日)09:38:41 No.1010469774
おせちもいいけどカレーもね
16 23/01/01(日)10:25:53 No.1010480636
クリスマス鮭に続く新概念