虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

1 23/01/01(日)02:18:26 No.1010425279

「去年の大晦日って何してました？」 窓の外は単調な白い景色が続く。北海道だとちょっと街の外に出るとどこでもこの景色だ。 運転席にテアさん。助手席に私。後部座席にルゥとトゥメアーさん。レンタカーは雪道をひたすら走る。 「去年の大晦日はスペインのマドリードでシたね。依頼の都合だったんでスけど」 何気なく振った眠気覚ましの話題にテアさんがぼんやりと答えた。 することといえばステアリングをまっすぐ握ってアクセルを適度に踏み続けるだけ。すれ違う車両、ゼロ。眠たくもなる。 「ああああの、私は」 「存在と非存在の間でモラトリアム決め込んでたらクリスマスも大晦日も無いでシょーが」 「あう」 トゥメアーさんが言いかけたがそれをばっさりとテアさんがぶった斬った。 相変わらず仲良いなこのふたり。再会したのは10年以上ぶりという話なんだけど。 ルゥは…何も変わらない外の景色を飽きもせずに眺めていて無回答。 片手でフリスクを口の中に放り込みながら、漫然とラジオの音声が流れる車内でテアさんがポツポツと語る。 「スペインの年越しは賑やかでスよ。夜明けまで続くどんちゃん騒ぎでスから。厳かな日本のとは比べ物になりまセん」

2 23/01/01(日)02:18:39 No.1010425320

「へー。…テアさん、日本で年越ししたことあるんですか？」 「ありまスよ。5年くらい前の話でスけど。鐘を撞いて朝日を見に行くんでシょ？ 　ただこの国は年明けそのものより年が明けてから行う慣習の方を大事にしている気がしまスね」 そうかもしれない。初日の出も見るし、お屠蘇も飲むし、おせちやお雑煮も食べるし、初詣にも行く。 隣でハンドルを握るテアさんがくすりと微笑んだ。 「面白い国でス。昨今時計塔に日本人の留学生が珍しくなくなった理由も分かる気がしまス。 　現代にあって一級の文明圏にいる民族全体の傾向として神秘を受け入れるのに比較的躊躇いがないというのは興味深いでスね」 …また不気味な微笑み方をしている。機械が笑っているような違和感。何もかも機構として認識しているような。 それをかぶりを振って払っている私にテアさんが言った。 「そう言う梓希はどんな年越しを迎えたんでスか？」 「私ですか？えっと…普通に両親と祝いましたね」 「そうでスか」 そんなこの人のとてもズルい点がこれ。 「それはとても良いことでスね」 時折こんなふうに、人間臭くて優しい笑い方をするんだ。忘れたものを思い出すみたいに、ふと。