22/12/31(土)23:02:06 泥晦日 のスレッド詳細
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画像ファイル名:1672495326333.jpg 22/12/31(土)23:02:06 No.1010331638
泥晦日
1 22/12/31(土)23:04:33 No.1010333159
2023年の泥に思いを馳せる
2 22/12/31(土)23:07:34 No.1010334965
2023年はミクトランネタバレ解禁から始まる
3 22/12/31(土)23:49:11 No.1010362476
ミクトランネタバレ解禁は2日じゃなかった?
4 22/12/31(土)23:53:14 No.1010365283
ゆく泥くる泥
5 22/12/31(土)23:55:01 No.1010366595
=>ゆく泥 くる泥<=
6 <a href="mailto:1/4">22/12/31(土)23:56:29</a> [1/4] No.1010367600
「それじゃ遅くなるようならまた連絡するのよ~」 「うん。ありがとうキミドリさん」 お礼を伝えながら手を振ると、キミドリさんのフォルクスワーゲンは陽気に走り去っていった。 東京が壊滅した時ちょうど他県へ出張中だったことで彼女の愛車は持ち主と一緒に難を逃れ、今もこうして元気に走っている。 まずキミドリさんが無事だったことが最も喜ばしいけれど、あの車が健在だったのも少し嬉しかった。あれをあの人は気に入っていたから。 丸っこいテールランプが小さくなっていくのを見送ってから、私は反対方向へ歩き出した。 ジャケットの襟を立てる。吐く息が白い。雪こそ降ってないが空気はかちこちに凍りついている。 ポケットに手を突っ込んだのは暖を取るためじゃない。指先にこつんと当たった硬質な感覚。端末を取り出した。 メールアプリを立ち上げ、歩きながらメッセージを送る。程なくして返事が返ってきた。 『分かった。迎えに行くからこっちまで歩いてきてて』 簡潔な内容。花奏さんらしいといえばらしいけれど。 端末の明かりを落としてポケットにしまう。等間隔で街燈が並ぶ道をひたひたと進んでいく。
7 <a href="mailto:2/4">22/12/31(土)23:56:40</a> [2/4] No.1010367713
───驚いてしまった。何気ない会話から大晦日はひとりです、と答えたら誘われてしまうなんて。 キミドリさんたち卯月家は大晦日は忙しい。グループ企業の総括をやっている富豪というのは私には想像もできないイベントがあるのだろう。 それでも残される私を気にかける彼らを私は気にしないでと送り出した。気を遣われるのも勘弁だが、だからって彼らと一緒に知らない顔の偉い人たちに囲まれるのはかなり気が引ける。 それにクリスマスだとか大晦日だとか、そういう日を特別祝うこともなくひとりで過ごすというのは慣れていた。 そういうつもりだったのだけれど。それを聞いた花奏さんから「年越し蕎麦でも一緒に食べない?」と言われるのは思ってもみなかった。 ───花奏、一応言っておくがコイツよく食べるぞ。昼飯に平気な顔で惣菜パン5つ食べるんだ。 ───うん、知ってる。パック詰めの稲荷寿司を全部食べて2パック目に手を付けようとしてたの目を疑ったから。 そんな遣り取りをしてふたりは不思議な生き物でも見る目で私を見た。そんなに変かなぁ。 …冬の夜空の下を歩く。時折すれ違う人々の足は早い。家路に急ぐのか。この年の瀬にまだ名残りがあるのか。
8 <a href="mailto:3/4">22/12/31(土)23:56:51</a> [3/4] No.1010367848
都市機能を失った東京中心地から郊外に政治機能が移ったことで、人口もそれに応じて分散した。 被災者を収容する仮設住宅も東京を囲むように建てられたから、被害地区の外縁はかなり人で賑わっている。 今私が歩いているところだって元は程よく鄙びた田舎道だったそうだが、こうして結構な頻度で人とすれ違う。 そんな日常に慣れようとしている自分がどこか奇妙だ。 あれから2ヶ月。想像よりも遥かに早くこの国は立ち直ろうとしているが、傷口はまだ大きく広がったまま血を流し続けている。 このあたりは被害がなかったから伺い知れないが、少し都心の方へ行けば未だ戦場跡のような瓦礫の山だ。 その真っ只中に自分がいて、みんなの力を借りて全てを終わらせ、こうして変容した日常を受け入れている。 何もかも夢だったんじゃないか、と呟く自分がいる。忘れるには全てがあまりにも生々しすぎる、と俯く自分がいる。 綯い交ぜになった気持ちのまま、私は新しく一歩を踏み出すこともなく足踏みをしている。 以前の自分なら、どこにも踏み出せないそんな自分に落胆し、嘆き、顔を覆っていたかもしれない。
9 <a href="mailto:4/4">22/12/31(土)23:57:06</a> [4/4] No.1010368008
でも今は、そうじゃない自分がいるんだ。 明日がちゃんと続いている。希望を託すに足る次がある。私にとってはその尊さを知る戦いだったのかもしれないという気がする。 待つ。雨の恵みを望むように。夜が明けて朝日が昇るのを期待するように。 癒えない傷はあるけれど、それでも再び歩き出す気持ちを持ち続けていればいずれその時はやってくる。 あと数時間で来年がやってくる。失われたものは多いけれど、それでも容赦なく。 それを悪くないと思える私がいる。何であれ、次があるというのは有り難い。 待つことを恐れなくなったのは私の中で一番大きく変わった部分だろう。 立ち止まっている自分を必要以上に嘆かず、過ぎる時間を必要以上に惜しまず、泣き出したくなる心を堪えて前を向く。 そんな自分に出会えたことが、あの狂騒と向き合った日々で私が得たものだった。 ───遠くの道に人影が増えた。ふたつ。見覚えのある背格好。 ひとつの影が手を振っているのでそれへ控えめに振り返す。道を歩く足を早めた。 視界に白いものがちらつき始めた。雪降る曇天の向こう、きっとスピカは輝いている。
10 22/12/31(土)23:57:52 No.1010368513
いい…
11 23/01/01(日)00:00:19 No.1010370353
あけましておめでとう 今年も泥をよく練れるように