22/12/31(土)21:07:01 「……い... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1672488421618.png 22/12/31(土)21:07:01 No.1010264430
「……いやぁ、我ながら流石に無謀だったかなぁ」 冬の夜。川辺で一人ごちる モコモコに着込んで河原にやってきたはいいものの、2時間このまま当たり無しは流石にちょっと堪えるものがある 温かいお茶を飲みながらゆっくり待つも、三本も出した竿の先につけた鈴はどれも静かなまま。普段の釣りと違って、予期せぬ嬉しい外道も見込めない釣りなためどうにも待ちくたびれてしまう はっきり言います。セイちゃん、心折れそうです 「……エサは取られてない……ていうか、餌取りはいないんだよねぇ」 普段の釣りであれば、この辺りでフグやベラなんかの餌取りが釣れてもいい具合なのだけど 今日はそうもいかない。なんせ釣り場は川で、エサは大きな天然ミミズ これを啄みにくる餌取りもそうそういないし、罷り間違って釣れるとしたら鯉か亀か。いや亀は是非ともご勘弁願いたいけど
1 22/12/31(土)21:07:12 No.1010264507
「綺麗な川なんだよねー、ここ」 だからこそ、ここに来たのだ 正直なことを言えばだ。ただ単に今日の目的の魚を釣るだけならばもっと近場でもよかった しかし、この川は近隣のそれとも比べてかなり水質がいい。その点は、今回のターゲットを釣るにあたっては何よりも大事な条件の一つ なんせ味に直結しかねないのだ。慎重にもなるというもの 「ふぅ……なんか疲れてきちゃったな」 アウトドアチェアから立ち上がって、んーっと伸び この釣りは兎にも角にも待つ釣りなのだけど、もし釣れたら出来るだけ早く巻き上げないと大変なことになったりする なので持ち場を離れるわけにはいかない。なんとも難儀なものだ 「後1時間くらいかな」
2 22/12/31(土)21:07:23 No.1010264611
この釣りは夕まずめ……日暮れくらいから夜にかけて一番釣れることが多い。日中でも釣れないことはないけど ただ夜だからといっていつまでも釣れるものでもない。これはあくまで経験則だけど、大体9時くらいまでが釣れる限界じゃないだろうか あんまり深夜になっても釣れないし、そもそも外出届けを出して出てきてる身の上なのであんまり長居もできない だとすると後1時間弱。そのくらい粘って、ダメならダメで諦めるだけだ 「正直、坊主の確率の方が高いもんね……」 下手に亀なんか釣ってしまった時のことを考えれば逆に丸坊主の方がまだいいかもしれない 野鯉あたりだったら釣りごたえもあっていいんだけど……いやまぁそれでもリリースしますけど 最後に一回、餌の付きを確認するために仕掛けを回収してみる まず一本目…… 「………触った形跡すら無し、かぁ」
3 22/12/31(土)21:07:33 No.1010264714
ミミズも元気がなくなってるし、交換かな 続いて二本目…… 「こちらも、そのままかぁ」 これは本格的に厳しくなってきた 次の一回がラストチャンスになるであろうこの中で、一回も触りもされないというのはそもそもこのエリアにお目当てさんがいない可能性も浮上してくる 嫌な予感を振り切るように三本目を回収。案の定、エサはついたままだった 「……キングあたりが見たら卒倒するかもなぁこれ」
4 22/12/31(土)21:07:43 No.1010264808
今回の仕掛けは、極めてシンプルなもの 川の流れに流されないように重く平たいオモリを付けて、その先に針。そしたらエサにミミズをつけて放り込んで後は放置するだけ ちなみにエサはトレセンの裏庭で天然物を採取してきました。見る人が見ると気を失いかねない光景だけど、釣りにはこういったことも付き物だ。そもそも普段から青いそめとかで慣れてるし あとはこれに食らいついてくれれば鈴が鳴るのだけど……風と川のせせらぎで小さく揺れるだけで、今日一回も反応なし セイちゃん正直泣きそうです。だって寒い中頑張ってクーラーボックスからのままは、何度経験しても悲しいんですもん 「そぉれっと。最後の一投、上手くいってよねっと」 まず一本、続いて二本目と仕掛けをそれぞれ違うポイントに投げ込んでいく さっきまでのポイントにはいないのはわかっているので今度は別の場所。構造物の影になている場所や植物の生い茂る場所の近くなど、ターゲットが隠れていそうなポイントへ 最後に一本。そぉれっと
5 22/12/31(土)21:08:06 No.1010264960
「これで釣れなければ…」 と、竿を置こうとした時だった 「………ッ!!?」 手に持ったままの竿は途端に大きくしなり、リールはまだドラグを緩めていないにも関わらずジジジッと糸を断続的に吐き出す うねるようなこの手応え。まさか、投げ入れてすぐにか 「来た!!!」 ドラグをもう一度締め直し、一気に巻き上げようとする 相手は間違いなく、狭いところに入りこもうとしているはず。もしそれを許せばアウト、一発勝負だ 竿を立てて弾力を活かし、絶対に行きたい場所にはいかせないように 普段の堤防や港と違って河原はふんばりが効きにくい。滑らないようにも細心の注意を払わねばならない
6 22/12/31(土)21:08:21 No.1010265095
「しっかり食ってるはず………お願いだから。逃げないでよ………ね!!!」 そうして、ついにそのターゲットは水面まで上がってきた 黒く細長い、その姿。ずっと待ち焦がれていたその姿 そして、タモ網を入れて……… 「ゲットぉ!!!!」 夜の河原に、歓喜の声が響いた
7 22/12/31(土)21:08:37 No.1010265243
● 河原に釣りに出て、一日。休日のトレセン学園の調理場に、クーラーボックスをかついでセイちゃん登場です いやぁ、昨日は疲れ果てちゃって、お風呂入ってニンジンジュース飲んだらすぐ寝ちゃいました 「いやぁ、死闘だった………」 実はあの後、置いてあった竿にまたヒットがあって見事二匹目を釣り上げることには成功したものの…… 気疲れもあって、帰ってきたときにはすっかりへたりこんでしまってた。粘り腰の末に勝利をおさめたとはいえ、代償は大きかったのだ 「ま、その分の甲斐はあったけどね」 そして、ついに今日待ちに待った時間がやってきたのだ 「さてさて。元気かな、と」
8 22/12/31(土)21:08:50 No.1010265351
クーラーボックスを開けて中を見れば………元気にうねうね動く、その姿 あの後、もう一匹釣れたのを合わせて二匹。何とも嬉しい釣果だ 「うんうん、丸々してていいウナギだ」 ウナギ。そう、昨晩頑張って釣っていたのは、このウナギだったのだ 冬にウナギ?と思うかもしれないけど、実はウナギの旬は冬。今が真っ盛りだ 元々夏の土用の丑の日にウナギが食べられるようになったのは諸説あるけど、平賀源内の宣伝・プロデュースの結果とかなんとか この時期のウナギは脂ものっていて、とても美味しくいただける。それも天然ものならなおさらだ 「うん、上手く泥抜きもできてるね」
9 22/12/31(土)21:09:02 No.1010265438
今回、釣ってすぐに調理しなかったのには理由がある ウナギや鯉、ナマズなんかの河に住んでいる魚は釣ってすぐにそのまま食べると、泥臭いことがあるのだ これは生息域の水質や普段の食性などからも決定されるので一概には言えないのだが、なので一晩から二晩ほどエアーポンプで生かしたまま綺麗な水の中で泳がせて、泥を吐かせてあげる必要がある 今回はかなり水質のいい川での釣りだったとはいえ、念には念を入れて一晩泥抜きをしておいた。これでダメなら、もう諦めるしかない 「じゃあ、捌いていきますよっと」 流石にウナギを捌くのは久しぶりなので気合も入るというもの。お魚アップリケのついたエプロンを装備して、むんっと気合充填 「まずは、と」
10 22/12/31(土)21:09:19 No.1010265588
今回は特殊な工程が必要なので、調理場のまな板を使うのは気が引けて自前のを持ってきた ますは腹の横、ヒレの少し手前に包丁を入れて そしたら、目打ち。頭を千枚通しでまな板に打ち付けて固定してやる ここで上手くいくとウナギが動かなくなるので後が楽になる。自信が無ければウナギの眉間あたりから包丁を刺して締めてからでも大丈夫 「で、こっからが鬼門なんだよねぇ………」 中骨の上に包丁を当てて……尻尾に向かっておろしていく これはテレビなんかで見たことがある人もいるんじゃないだろうか ただこの作業、本当に難しい。ウナギ自体がぬるぬるして固定しづらいのもあるけど尻尾の方まで綺麗に裂けるようになるには相当練習と集中力が必要だったりする ちなみにセイちゃんは釣ったアナゴで練習しました。経験って活きるものですね 「………よし、きれいにできたぁ」
11 22/12/31(土)21:09:30 No.1010265705
まだ一匹捌いただけなのに、ふぃーっと大きくため息が出てしまう。あー緊張した うん、上手くさばけた。あとは内臓を潰さないようにして取り出し、肝を氷水に入れておく そしたら中骨を綺麗に削ぎ落として尾びれを落とす あとは腹骨に切れ目を入れて骨を取って、血合いを丁寧にとったら……… 「よぉし、まずは一匹」 これで、綺麗なウナギの開きの完成だ 折角のウナギ、綺麗に美味しく食べたいもんね。あと一匹も、丁寧にやっていこう
12 22/12/31(土)21:09:40 No.1010265776
● 「………なんとかできたぁ」 普段やってるお魚の調理と違って、本当に気疲れしてしまう調理だ 何とかもう一匹も綺麗に捌けて、それだけでふへぇと力がぬけてしまう。内臓潰したり変な場所で切れなくて本当によかった 「さてさて、じゃあ焼いていきましょうか」 ウナギを四等分にして、と 先に、ウナギの頭と中骨を魚焼きグリルで香ばしく焼いておく。多少焦げ目がつくくらいがちょうどいい その間に鍋に醤油、みりん、料理酒とお砂糖。焦げないように気を付けながら一煮立ちさせて、一度火を止める そこに焼き上げた頭と中骨を入れる。弱火で煮詰めて、これでタレの完成だ 「んで、ウナギをっと」
13 22/12/31(土)21:09:51 No.1010265866
本当は炭火でやりたいところだけど……流石に無理なので、今回は魚焼きグリルで代用する まず強火で皮目から。適度なところで裏返して、と そしたら、先ほど作ったタレにくぐらせてもう一度。今度は弱火で、焦げないようにじっくり もう一度タレにくぐらせて弱火でもう片面を焼いて、それをもう一回繰り返せば……… 「ウナギの蒲焼、かーんせーい」 これだけで、もうヨダレが止まらない出来だ。ジェネリック気味とはいえ完成度は高いはず そしたら小鍋を用意する。ここに水を入れ、沸騰させて、と 「肝をよーく洗って………」 沸騰したお湯で2~3分、ウナギの肝を湯であげて。そしたらさっと氷水で冷まして粗熱を取る 別の小鍋のお湯に、今回は時間がないので顆粒出汁を入れて。塩を少し追加して味を見て、醤油をほんの少し そこに肝と三つ葉を入れれば………肝吸いの完成だ
14 22/12/31(土)21:10:08 No.1010266017
「さてさて、丼にご飯をよそって~♪」 気分はルンルン。久しぶりの超贅沢ご飯といきましょう 本日のメニュー ウナギ丼 肝吸い 「それじゃあ………」 今すぐにでもがっつきたいところだけど、まずはやらないといけないことがある すっと、両手を合わせて目を瞑って 「いただきます」
15 22/12/31(土)21:10:24 No.1010266166
さぁさ、待っていましたと箸をつけるのはうな重ならぬウナギ丼 箸で身をほぐしてタレのよく染みこんだご飯と一緒に口に入れれば……… 「……はふぅ」 しあわせです 適度に食感の残ったウナギの身とほくほくのご飯。合わないはずもなく、口の中で甘辛いタレとよく絡んで香りが鼻を抜けていく 山椒をちょっとかければ……ああ、いい香り。ぴりっとした辛さがまたウナギに合う 「お店のとは少し違うけど、それもまたよしだよねー」 ちなみに、ウナギの焼き方には大きく分けて東西の違いがあるらしい 関東風は一度蒸してから焼くのでふんわりした仕上がりになるけど、関西の焼き方は蒸さないのでウナギの食感がしっかり残った仕上がりになるんだとか その他柳川流や名古屋流………などなど細かくあるそうなんだけど、それは割愛 今回は蒸す手間を省いたので関西風かな?どのみち、炭火を使わずに作ってるし肝吸いも結構インスタントなジェネリックウナギだけど
16 22/12/31(土)21:10:37 No.1010266297
「ん~、肝吸いも美味しい」 シンプルな味付けだけど、お吸い物はそのくらいでちょうどいい 肝の食感って面白いよね、と。小さいときは良さがわからなかったけど、少しは大人になったのかな? 捌いてみるとわかるけど、ウナギの肝って貴重品だ。一匹から本当に少量しか取れないし、お値段が張るのもよくわかる 肝焼きなんて、あの串一本作るのにたくさんのウナギが必要となるとお店も大変だなぁと 「タレマシマシのご飯がまた美味しいんだよね」 香ばしく焼いた頭と中骨を加えて煮込んだタレは独特のコクが出る これはアナゴなんかでも同じで、ゴンズイとかでは流石にやらないけど釣ってきたときにはできるだけ生かすようにしてる このタレが染みこんだご飯はすでにそれだけで単品の御馳走として成立しそうなくらい。ああ、この国に生まれてよかったぁ
17 22/12/31(土)21:10:49 No.1010266405
「さてさて、締めにいきましょうか………」 半分ほど食べたウナギ丼を……ちょっとお行儀悪く見えるかもだけど、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて そこにワサビを少しだけ乗せて、あらかじめ用意しておいただし汁をかければ……… 「なんちゃってウナギ茶漬け、もといなんちゃってひつまぶし~」 一度やってみたかった ああ、だし汁の香りとウナギの香りが合わさって鼻を抜けてく。甘辛くコクのあるタレがだし汁でマイルドになって……最後にすーと、ワサビのさわやかさが これだけで何杯でも食べられちゃう。でも、あんまりの美味しさに一気に掻き込んでしまってすぐに無くなっちゃった。残念 「ふぅ……美味しかったぁ………」
18 22/12/31(土)21:11:00 No.1010266521
お腹もいっぱいになったけど、それ以上に味の満足感が半端じゃない 久しぶりにすんごい贅沢した気分。お店で食べたら凄い値段しそうなんだけど、釣って自前で捌けばなんともリーズナブル ただ毎回釣れるものでもないし、時期の問題もあるから難しいんだけどね 今回は臭みも無いとても美味しいウナギに出会えた。しかも二匹も釣れて、こんなご馳走にまでありつけたんだから満足しないはずがない 「さてさて」 お吸い物の残りを啜ってお椀を置いて 厳しい寒さの中、耐えて耐えて耐え抜いて出会えた貴重な釣果 また出会えるのはいつになるのだろうか。この冬の間に、もう一回くらいはお会いしたいなぁ
19 22/12/31(土)21:11:12 No.1010266639
「今日は、この辺で………」 すっと、両手を合わせて目を瞑って 出会えたウナギとその命に感謝と敬意をもって 「………ごちそうさまでした」 また次の釣りも、楽しく美味しい一日になりますように
20 22/12/31(土)21:11:29 No.1010266797
おわり。セイちゃんにウナギ食べてもらった
21 22/12/31(土)21:13:46 No.1010267984
貴様うまそうな文書書きおって
22 22/12/31(土)21:15:51 No.1010269102
セイちゃんいいもん食ってるな…
23 22/12/31(土)21:17:02 No.1010269712
ご飯食べた後なのに鰻食べたくなってきた…
24 22/12/31(土)21:20:44 No.1010271827
うなぎ焼いてる時すごい匂い漂ってそうだな
25 22/12/31(土)21:24:42 No.1010274040
このセイちゃん漁師で食っていけるだろ
26 22/12/31(土)21:29:19 No.1010276363
多分スペちゃんあたりが匂い嗅いで震えてる
27 22/12/31(土)21:32:30 No.1010277950
孤独のグルメとのダブルパンチで脳味噌が鰻一色になってる
28 22/12/31(土)21:39:52 No.1010281710
ウナギの匂いってなんであんなに腹減るんだろうね
29 22/12/31(土)21:41:37 No.1010282598
腹が減った
30 22/12/31(土)21:45:39 No.1010284619
ちなみに川は遊漁券を購入する必要があるので要確認だぞ
31 22/12/31(土)21:47:38 No.1010285567
白焼き食べて~ というか目打ちまで持ってるのほんとすごいねセイちゃん…
32 22/12/31(土)21:48:53 No.1010286163
このセイちゃんはフグ以外なら何持ち込まれても大抵捌けそう
33 22/12/31(土)22:02:22 No.1010293061
調理を手伝っていたフラワーが手を洗わずに目を擦りそうになったところを セイちゃんが急に手を叩いてわけも分からずフラワーの眼に涙がにじみ始め…