ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/12/31(土)04:37:01 No.1009990694
薄暗い部屋に緑、白と小さな光が灯り、シーツを鈍く震わせる。 気だるい手を伸ばし画面も見ずに応答してみれば、今は辛いくらい明るい声が鳴り響く。 「お兄ちゃん元気?今からね~……」 「元気じゃない……」 「嘘っ、また風邪ぶり返しちゃった!?」 「いや、ワクチンの副反応……」 「……は?病み上がりなのに打っちゃったの?」 「一月前から予約してたし……まとまった休み年末にしかないし……」 「問診表に風邪のこと書いたの?」 「……書いてません」 はぁ、とため息を最後に電話は切れた。
1 22/12/31(土)04:37:20 No.1009990724
焼けそうなくらい熱は出るのに汗はまったく出てこない。 どころか、毛布を二枚かぶっても肌寒さが止まらない。 頭痛はもちろん、節々の痛みで寝返りを打つこともままならない。 食欲なんか湧く訳も無く、コップ一杯のスポーツドリンクを飲むのだって億劫だ。 しんどい。 何度目かの経験とはいえ、喉元に突きつけられた熱さは慣れるものでもない。 寝てるだけで過ぎ去るとはいえ、一人で体を丸めていると孤独感の方が勝ってしまうものである。 それが年の瀬ならばなおさら。 もう少し有意義に過ごせたと思う一方で、こういう機会でも無いとこの類のワクチンなどとても打てない。 下火がちとはいえ、長引く感染症の災禍の中、担当に降りかかるリスクは少しでも軽減したい。 だからこれは必要なことなのだ、と。
2 22/12/31(土)04:37:37 No.1009990736
(寒い……) 理論武装しても、隙間風は心の体温を奪っていく。
3 22/12/31(土)04:37:50 No.1009990753
がちゃんとドアが開き、ぱたぱたと誰かが靴を脱ぎながら廊下の電気を付ける。 同居人がいるならば不自然でもない。が、無論トレーナー寮は一人暮らし限定である。 朦朧とした意識の中でも警戒に体は固まり、起き上がって居間に繋がるドアを睨む。 すぐそこの冷蔵庫の前で何やら物色しているようで、その頭の上でぴこぴこと動く影が、二つ。 「……カレン?」 「なーんで一年の終わりに2回も寝込むのかな、お兄ちゃん」 いつものニコニコとした笑みはそこには無く、あからさまな怒り、と呆れの混ざった新鮮な表情があった。 サイドテーブルに置かれたマグと、半分ほど無くなったボトルを見てため息を吐く。 彼女は気まずそうに目を逸らす男にぐいと詰め寄り、その鼻をつつきながら目いっぱいむくれてむせた。
4 22/12/31(土)04:38:06 No.1009990772
「し・ん・ぱ・い・か・け・な・い、って言ったよね?」 「はい……」 「カレンが病み上がりに副反応あるワクチン打ったらどう思う?」 「心配します……」 「反省は?」 「しましたごめんなさい」 「よろしい」 熱や痛みよりよっぽど堪える答弁を終え、彼女はマグにスポーツドリンクを注ぎなおす。 そのまま傍らに放置してあった冷却シートの封を開け、手際よく男の額に貼り換えた。
5 22/12/31(土)04:38:18 No.1009990788
「ゆっくり飲んでね。むせたら大変だから、ね?」 差し出されたマグカップを受け取り、ぬるい甘露に口を付ける。 10近い年の差を逆転したお世話のされっぷりを情けなく思いながら、それでもなんだかコップの中身は暖かかった。
6 22/12/31(土)04:38:30 No.1009990826
部屋の簡単な片付け。洗濯物の取り込み。たまに看病。 ベッドの中から横目でみる限りでも彼女は甲斐甲斐しく働いてくれた。 沸かしたお湯を注いだだけの夕食でも、二人で食べれば違った味になる。 元々万能さを感じる子ではあった。 それでも料理が苦手なところだとか、足りないところがあったから隣で支えてあげられると思っていた。 ……強いて挙げてもそのくらいの年若い彼女に、こうも家庭的なところを見せられたこと。 それはやがて一人で生きていくことに何の不足もないことの証拠であり、 それが温まった心の真ん中に、ドーナツのように穴を開けたことに、男は気づけなかった。 「……まだ苦しいのかな」 日が落ちてしばらくしたころには、病気の男はすっかり寝静まっていた。 熱のせいか若干表情は険しいが、それでも朝よりは安静になった方だ。
7 22/12/31(土)04:38:42 No.1009990852
この分なら朝になれば自分でなんでもできるだろう。 そう思った彼女はゼリーなど土産を残して帰る準備を始めた。 必要そうなものを近くに並べて置き、使い終えたものは持ち帰る。 そうしてごそごそとカバンを整理していた時に、隣でもぞもぞと動く音がした。 「お兄ちゃん……?」 波打つシーツはのたうつように腕を吐き出し、のたうつ腕はシーツを押しのけ空に伸びる。 明らかにうなされている寝相に、断続的な呻き声はただならぬものを彼女に与えるのには十分だった。 「うぅ……ぁ……」 「お兄ちゃん……お兄ちゃん大丈夫!?落ち着いて……」
8 22/12/31(土)04:39:22 No.1009990915
落ち着いたと思ったのもつかの間、つむられたままの目が歪み、端からぽたぽたと雫を垂らし始める。 あいまいだったうわごとも幾分かはっきりとして、懺悔の言葉を成していく。 「カレンは、俺、なんか置いて、宇宙一に、なるべきでっ……」 「……お兄ちゃん?」 「引き留めて、ごめん……そんなつもりじゃなくて……」 「は?」 「今からでもいいから……飛び立ってくれ……」 睡眠中の脳は子供のおもちゃ箱と同じである。 しまったもの、閉じ込めておいたものを区別なく引っ張り出して"夢"を作る。 だからこそ声も届くことがあるし、だからこそ引き出せてしまった本音もある。 大人の面子にかけて、仕舞い込んでおきたかった本音を。
9 22/12/31(土)04:39:32 No.1009990928
「お、兄ちゃんっ!」 「あだぁっ!?」 握っていた手を放し、そのまま振り上げて側面を寝こける額に叩き込む。 マットレスの弾力を貫通して底板の硬さに触れさせる程度の威力にたまらず跳ね起きた男の肩は、怒りの表情を隠さない彼女によって捕まえられる。 「うぇ、カレン?な、何かあったの……?」 「……お兄ちゃん、今までカレンの何を見てきたの?」 「藪から棒に……。宇宙一カワイくなるために頑張ってきたじゃないか」 「そこに自分はいなくてもいいって?」 「は、えっ?」 「カレンがお兄ちゃん無しでも宇宙一カワイくなれるって思ってるんだ?」 「いやそんな……」 「……」
10 22/12/31(土)04:39:43 No.1009990944
訳も分からないうちに始まった詰問にしてはよく耐えた。 が、秘めた確信を突かれた上に、頭の上がらない相手からの無言の圧力に耐えられるほどには彼も無神経では無かった。 「そりゃあ……俺がいなくなったくらいで折れたりはしないだろ?」 「正解、でもぶっぶー」 「えぇ……」 乙女心と比較するには窓の外はもう冷たい、がそういうことでもなさそうで、未だ意味を理解しかねる彼に彼女は懇々と説く。 「いなくてもいい人にあんなになってスカウトすると思う?」 「しないです……いや立場逆じゃ」 「いなくてもいい人と3年も付き合える?」 「……仕事なら。あ、いや、カレンにそんなこと思った覚えは無いよ!?」
11 22/12/31(土)04:39:56 No.1009990964
「……いなくてもいい人と、クリスマスデートに行きますか?」 「多分いかないです……」 構図は完全に悪ガキを嗜める教師であった。 違うのは介在する感情で、それは教育愛というには、余りにも情熱的だった。 「カレンにとって、お兄ちゃんは何?」 「……いなくちゃいけない、その……大切な、人」 ばつの悪さから逸らしがちだった目を、どうにか元に戻し、そしてぎょっとする。 叱るばかりで吊り上がっていると思っていた目から、大粒の涙が零れていたのだから。
12 22/12/31(土)04:40:19 No.1009991008
「……ごめん」 「ずっと、カレンの、何を見てきたの……ばか……」 「そんなつもりは本当に無かったんだよ……」 教師と子供から、子供と保護者へ。 胸に縋りつき、涙粒を染みさせた胸板をぽすぽすと叩く。 心の割合にして1%にも満たなかった弱音でも、彼女を傷つけたことには変わらない。 1%だって二人で歩む未来を疑わなかった彼女からすれば。 「ばか、ばかばかばか、ばか……」 「ごめん」 「うぅ~……」 「ほら、涙拭いて……」
13 22/12/31(土)04:40:30 No.1009991024
小さな顎を持ち上げ、とんとんと涙をふき取る。 赤らんだ頬はぷぅと膨らんで、つつきたくなるほど愛らしい。 かと思えばすぐにしゅんとしぼんで上目遣いに早変わり。 「ずっと一緒に、いてくれる……?」 「もちろん」 くるりと変わるまぶしい笑顔に、返答の正しさを確信する。 と同時に、自分がいいように転がされるばかりなことを再度自覚、そして、 「敵わない、な、ぁ……」 「あっ」
14 22/12/31(土)04:40:47 No.1009991048
自分が熱と痛みで苦しんでいたことを思い出し、ひっくり返るようにベッドの中へ沈んでいった。 「お兄ちゃーん!?なんか体反ってない!?」 「いいい、痛いからそっとして……」
15 22/12/31(土)04:41:13 [おしまい] No.1009991098
熱で浮かされてるときに見た夢なので実話と言って差し支えないと思います よいお年を
16 22/12/31(土)04:42:57 No.1009991300
スレッドを立てた人によって削除されました 就職氷河期世代のオタクにありがちな特徴 ・インターネット黎明期のインターネット=アングラ空間だという意識がまだ抜けていない ・露悪趣味がカッコいいという感覚がある ・基本的に社会に対する憎悪と怨恨を抱いており被害者意識が強い ・その癖オタクである自分は特別なセンスを持った特別な人間だと思っている ・ちょっと哲学や心理学や物理学の用語を並べただけのオタク向けアニメやゲームを"深い"と思っている ・40代50代にもなって未だに「若者」のつもりでいる
17 22/12/31(土)06:05:57 No.1009996956
もっと熱出せ
18 22/12/31(土)06:07:13 No.1009997023
もっと副作用を出せ
19 22/12/31(土)06:08:31 No.1009997101
もっとうなされろ
20 22/12/31(土)07:47:08 No.1010005521
まだ熱出てるだろう? 出ろ 出せ
21 22/12/31(土)07:56:30 No.1010006788
鬼ばかりじゃねえか!
22 22/12/31(土)08:18:45 No.1010009869
お兄ちゃんは白いの出せ
23 22/12/31(土)08:59:10 No.1010016913
だっめもっも見たい!だから熱出して!