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年末進... のスレッド詳細

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22/12/25(日)01:24:21 No.1007698989

年末進行で心身共に疲労したトレーナー達がこの時期は激増する。 有馬記念、東京大賞典を始めとする年末レース組は言うまでも無く、そうでなくともトレーニングの予定が少ないこの時期に溜まった書類を消化する者も、冬の修羅場に自ら身を投じる。 ただ彼はその例に漏れず、というほどでは無かった。 担当のカレンチャンはスプリンターで、この時期は出られるレースがそもそも多くない。 むしろ年度末の高松宮記念に向けて今は英気を養う時期で、トレーニングの予定はほとんど入れていなかった。 それでも彼が自宅で無心でキーボードを叩き続けていたのは、単なる親切心からなるものである。 今にも死にそうな同僚に声をかけ、互いに負担にならない範囲で仕事を肩代わりする。 この時期に持て余した時間の使い道であり、暇を取る罪悪感への薬でもあった。

1 22/12/25(日)01:24:46 No.1007699180

重い頭を振って時計を見れば、針がちょうど最頂点で触れあう頃。 昨夜積もった雪も土と混ざって斑を描いている。 少々請け負い過ぎたか、と首を回し、軋む頭に眉を顰める。 朝から夢中で作業していただけに疲労もひとしお、しかしそのおかげでタスクは粗方片付いていた。 壁に掛けたジャケットを見て、机の上のチケットを見る。 今夜は、1年越しの約束を果たす時。 去年へたれた自分に活を入れてくれた彼女と一夜を共にする。 段取りに身を任せ、その先の責任も全て取る決意は既に固めていた。 「……少し寝るか」 どうにも頭が痛い。流石に気合が入り過ぎだ。 妙に水っぽい鼻をティッシュで噛み、くずかごに投げ捨てた反動でベッドに沈む。 もぞり、と彼は体を動かし、ブランケットに体をくるむ。 目を閉じても、頭痛で意識がぼんやりと宙に浮いたままだった。

2 22/12/25(日)01:25:02 No.1007699284

……薄く目を開けた。 部屋は薄暗く、まだ時間まで余裕がありそうだ。 喉が渇いた。 どうにも、動きたくない。 目を閉じた。

3 22/12/25(日)01:25:18 No.1007699374

カレンの背中を追いかける。 足元が歪んで、絵具のように拡散していく。 彼女が、いや、自分が90度傾いた。 どれだけ走っても追いつけない。そもそも走れている気がしない。 手を伸ばしても、届かない。 どこへともなく落ちるような感覚がした───

4 22/12/25(日)01:25:28 No.1007699430

目が開いた。 白い天井に、妙にじっとりしてすっきりとした体。 そもそも見覚えがない天井に、重たい体をゆっくりと起こした。 「ここ……」 右手の窓、鏡のように暗い向こうにぽつぽつと明かり。 反対側、黙って何かを読むカレンチャン。 「カレン?」 呼びかけに弾かれるように頭が起き上がり、その眼が大きく開いた。 心なしか隈のできた目は、一言では言い表せない感情でぐちゃぐちゃになっていて、彼女自身もその折り合いが付いていないように見える。 彼女は手を伸ばそうとし、行き先に迷ったのかゆっくりとそれを下ろす。 膝に手をついて俯く姿にトレーナーが声をかけようとした。

5 22/12/25(日)01:25:56 No.1007699571

「お兄ちゃんのバカっ!」 キン、と耳の奥で鳴るほどの声量に思わず目をつむる。 ベッドに乗り込まれる感触に我に返るとカレンチャンは見たことのない糾弾の表情を向けていた。 「トレーナーなら自分の管理もしっかりしてよ!倒れるまで仕事してたら何にも意味ないじゃんっ!」 「ま、待って待って。よく意味が……」 「ん!」 ずい、と差し出されたスマートフォン。 ファンシーな壁紙に目を凝らせば当然日付が乗っている。 12/25 3:00、と。

6 22/12/25(日)01:26:25 No.1007699714

喉の奥がぽっかり落ちくぼんだような感覚に、思わず言葉を失う。 落とした視線の先には病院には不釣り合いなシックなデートコーデがあり、自らの過ちをまざまざと見せつけるようだった。 視線すら失意の重みに負け、両手を突かないと潰れそうなほどに体に圧し掛かる。 ごめん、とぽつり彼が漏らす。 その肩を痣ができそうなほど強く掴む手があった。 反射的に起き上がった体ごと押し倒すように力がかかり、病み上がりの体はなすすべなくマウントを取られていく。 何が何だか分からないといった様子の男が見たのは、逆光で影のかかった、強いまなざしだった。

7 22/12/25(日)01:26:35 No.1007699772

「やくそく。もうカレンを心配させないこと」 「分かった」 「二度と、二度と、カレンを心配させないで……」 体を震わしながら、徐々に潤んでいく語尾のように腕の力が抜けていく。 最後には縋りつくような体勢で説かれた言葉に、彼はただ頷くしかなかった。 泣きじゃくる彼女の体を静かに抱きしめる。 雪の降る夜の出来事だった。

8 22/12/25(日)01:26:48 No.1007699841

翌日、退院したトレーナーとカレンチャンは改めてディナーを取っていた。 トレーナー室で、軽食を持ち寄ったこぢんまりとした席で、二人はグラスを鳴らす。 「ほんとごめん。2年連続俺が不甲斐ないばかりに……」 「ううん、いいの。お兄ちゃんが元気になったから」 「これ、プレゼント。昨日渡すはずだったやつ、と……」 彼が差し出した紙袋の裏で何かを取り出す。 促されるままに差し出した小さな手に、チェーンだけが付けられた鍵が乗せられた。 彼の住まう部屋の合鍵だった。

9 22/12/25(日)01:26:58 No.1007699899

「……これ」 「もう二度とないとは誓うけど……その、万一の保険として……」 「いいの?」 「……預かっててほしい。カレンに」 「……うん」 握った手を、胸元でまた握りしめる。 「もう、しょうがないんだから……」 諦めの混ざったような笑みが、妙に印象的だった。

10 22/12/25(日)01:27:17 No.1007699976

「ところでお兄ちゃん。性の6時間っていつか知ってる?」 「えっうんそうだね知ってるよどうして?」 「答えてみて」 「えっと……24日の午後9時から3時くらい」 「カレンとお兄ちゃん、ず~っといっしょにいたよね♪」 「は?……あっ、あれは違うでしょ!?」 「カレンのこと、あんなに情熱的に抱きしめてくれたのに……覚えてないの……?」 「覚えてるけど!色々と語弊があるでしょその言い方!」 「来年もー、一緒に過ごそうね、お兄ちゃん♪」

11 <a href="mailto:おしまい">22/12/25(日)01:27:41</a> [おしまい] No.1007700090

カレンチャンと性の6時間を過ごしたい人生でした

12 22/12/25(日)01:28:24 No.1007700293

健全な6時間だったな…

13 22/12/25(日)01:31:37 No.1007701315

なんだい今日は…最高にカワイイ怪文書をよく見るが…

14 22/12/25(日)01:33:09 No.1007701776

カレンが報われてる姿が見たいんだ

15 22/12/25(日)01:39:53 No.1007703859

普通、ストーリー内ではトレーナーと幸せなクリスマスを過ごしてるもんだから ほぼ唯一、上手にコトが運ばなかったカレンチャンの「その先」が見たくて筆を取るのだ…

16 22/12/25(日)02:00:34 No.1007710361

この事件を機にトレーナーに合鍵を強請るウマ娘が急増したという

17 22/12/25(日)02:01:25 No.1007710570

来年のクリスマスは覚悟してねお兄ちゃん

18 22/12/25(日)03:11:40 No.1007724705

来年こそはお兄ちゃんもキメてくれるだろう

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