22/12/25(日)01:06:25 「クリ... のスレッド詳細
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22/12/25(日)01:06:25 No.1007692905
「クリスマスに手羽元って、どうなんですか?」 ぐつぐつと煮えたぎる土鍋を目の前にしてすずめさんが言う。 「同じ鳥だから、多分同じだろう」 土鍋の蓋からは蒸気が吹き出し、ピーピーと小さく風切り音を立てている。草太は頃合いだなとイワタニ製のガスコンロの火を落とす、そしてじいちゃんから譲りうけた古びたミトンで土鍋を持ち、蓋を開ける。 白い湯気のカーテンが二人を遮った後、白菜や豆腐、しめじ、鶏もも、手羽元…白の世界が鍋を支配をする中、しいたけの茶色と人参の橙だけが唯一抵抗している。 鶏鍋の完成である。 「同じじゃないですよ、もっとこう…その…チキンとか」 もじもじしながらすずめさんは言う。 「すまんすずめさん、近所のケンタッキーは11月末にはもうイブの予約は一杯なんだ…忙しくて予約できなかった事は謝る。近所で売ってる最近できたヤンニョムチキン屋は…すずめさん辛いのは苦手だし。あとスーパーや下のローソンにはチキンは売ってるけど…ねぇすずめさん。こっちの方がいいと思わないかい?とりあえず味見して?」
1 22/12/25(日)01:07:03 No.1007693127
そう言うと草太はすずめさんの小鉢に鍋を取り分ける手羽元はまだ熱いので避けて、鶏ももを中心に野菜を入れていく、スープは鶏ガラベースの優しい塩味。 「・・・あっひゅい!」 「ほらすずめさん、あわてないで、フーフーして食べるんだよ」 そう言いながらも草太も自分の小鉢に鍋をよそう。 「…あっ♪おいしい♪」 息を吹きかけ、少し冷ましてからすずめさんは鍋のスープを啜る。しばらく間が空いた後、彼女は噛み締めながらこう答える。 「そうかな…味に自信があるかと言われたら…ある!と言い張るけど、男の料理だよ?」 「いいんです、草太さんの味がします…それに―――」 「それに?」 「私…環さんとずっと二人暮しだったでしょう?鍋ってあんまりしなかったんですよね。 お母さんが居た頃は鍋…一緒にしてたのかな?記憶にないや。だから鍋ってすごい新鮮で、おいしいです草太さん」 彼女は軽く、瞳がうるいでいた。そしてそれはすぐ涙へと変わった。 「すずめさん!?大丈夫!?」 流石の草太も慌てる。
2 22/12/25(日)01:07:27 No.1007693278
「大丈夫です、私…美味しい物や綺麗な物、心を動かされる時ってすぐ涙が出ちゃうんです。涙もろいのかな?いやそれとも違うのかな?なんだろう…わからない、同説明したらいいんだろう…」 すずめさんは一人自問自答している。すずめさんの癖だ、この姿は何度も見たことがあると草太は語る。 「ようするに…俺の作った鍋が…泣くほどおいしかったと?」 草太は疑問符を投げかけた。まさか泣くほどうまいなんて自負は持ち合わせていなかったが、一応聞いてみる。 「そうです!そういう事ですよ!!!」 恥ずかしそうにすずめさんは答える。その顔は鍋の熱でやられたのか頬は真っ赤に染まっている。 「正直に言えて偉いね、すずめさん、そんなにおいしかったのなら作った甲斐があるってもんだよ」 草太は小学生に言い聞かせるようすずめを褒める(?)そしてその大きな腕(かいな)ですずめさんを撫でる。すずめさんは恥ずかしそうにうつむいたままだ。 「まぁ…すずめさんの気持ちはわかったよ。とりあえず冷めちゃうから鍋、食べよう?」 すずめさんはコクリとうなずいて、おかわりの仕草をする。はいはいと言った感じで草太は小鉢に鍋をよそう。
3 22/12/25(日)01:07:51 No.1007693438
「手羽元、美味しいですね」 「うん、よく煮えて味が染みているね」 「〆に何入れましょうか?うどんもラーメンも買ってきましたよ?」 「今朝炊いたご飯が余っているからおじやにしよう」 「いいですね」 こうしてクリスマスらしくない夕餉の時が過ぎる。しかし、二人はまるで暖かい物に包またようで、何処か倖せそうであった。 ◇◇◇◇ 夕餉の片付けを追え、二人、寝床につく。おおよそ6畳ほどの狭い空間に布団を二枚、ギチギチに敷き詰めて、二人、褥につく。布団を二枚敷いているというのにお互いの体は抱きしめるかのように触れていて、寒波が染みる東京御茶ノ水の空っ風も気にならないほど暖かい物であった。普段つけている電気ストーブも今日は消えており、赤熱色は彼らを照らしてくれない。
4 22/12/25(日)01:08:21 No.1007693630
「草太さん、明日こそは行きましょうねイルミネーション」 「そうだね、すずめさん楽しみにしてたからね、行きたい所は…あるの?」 「えっ!?草太さんがエスコートしてくれるんじゃないんですか!?東京にいるんだから案内してくださいよ!」 素っ頓狂な声が部屋に響く 「そんな事言ったってねぇすずめさん、東京に住んでいても、彼女でもいない限り男にとっては無用の長物なんだよイルミネーションは。でもきらきらと輝くもの、美しいものを見たいって気持ちは俺にも解るよ。」 「大丈夫です!この日に備えて調べてきました!ネットで!」 そう言ってすずめさんは様々なスポットを並べていく。原宿竹下通り、東京駅丸の内公園、代々木公園、品川の大井競馬場――― 「多いなすずめさん、流石に全部は回れないよ」 「どれか一つ、選んでください」 「うーん、イブほどじゃなくてもどこも混んでいそうだ。競馬場なら混んでないかな…天皇杯は中山だし、でもイルミネーションに競馬場はなぁ」 「じゃあそこ!そこにしましょう!」 「すずめさん!?」 「いいんですよ♪草太さんと一緒なら、何処だって行きますよ…今日だってそうじゃないですか」
5 22/12/25(日)01:08:39 No.1007693752
「そうだね…ごめんね、すずめさん」 「いいんですよ」 この二人にとってクリスマスイブがあまりクリスマスイブらしくない一日であった理由はある。 簡単だ、24日の明け方、後ろ戸が開いたのである。それはすずめさんも草太も直感的にはわかった。後ろ戸が開く感覚はふたりとも研ぎ澄まされており、すずめさんも草太の見習いながらも立派な閉じ師の見習いだ。 場所は栃木県、日光鬼怒川、現在でも有名な温泉地ではあるが、中身は廃墟と化したホテルが猥雑に乱立するかつての観光地だ。 電車を乗り継ぎ、バスを乗り継ぎ。廃墟のホテルのガラスを踏み割り、4階の閉じられた一室のドアを二人でこじ明け、後ろ戸をかしこみかしこみ閉じたのである。 鬼怒川を日帰りは東京からでも中々大変で、帰る頃には17時を回っていた。お互い、疲労困憊だった。疲れた体にムチを打ち、スーパーで買い物を済ませ、手軽にできる鍋にしよう…となったのだ。
6 22/12/25(日)01:09:10 No.1007693920
「閉じ師って、大変なんですね」 「そうだよ、盆も正月もないからね、すずめさんは無理して手伝わなくていいんだよ、俺一人で問題ないよ」 「ダイジン抜いちゃった後ろ戸、草太さんだけじゃ閉じれなかったじゃないですか!やっぱり私は必要なんですよ」 「…ははは、すずめさんには勝てないや」 「私と草太さんはずっと一緒…ずっと一緒なんですよ…お互い、一生離れられないパートナー…」 「そうだねすずめさん、本当にいつもありがとう」 草太はすずめさんの額に軽く、キスをする。その唇の感触をすずめさんは全ての神経を額に集中して感じ取る 「こちらこそこれからもよろしくおねがいします…じゃあ、明日。行きましょうねイルミネーション」 彼女は軽く枕の上で一例して草太の唇を奪う、軽いキスから互いに舌を入れる情熱のこもった口づけになり、互いの手は、互いの体を激しく弄り合いはじめる。 聖なる夜の、神聖な瞬間が訪れた。
7 <a href="mailto:おわり、メリークリスマス!">22/12/25(日)01:09:40</a> [おわり、メリークリスマス!] No.1007694118
二人を阻むものは、誰もいない。チリチリと舞い降りはじめた東京では珍しい粉雪、二人を見守っている。 ―――それから二人は昼過ぎに目を冷まし、布団を片付けた後。一緒にシャワーを浴びて 1階のローソンで予約していたケーキを受け取り。珍しく紅茶を煎れ、二人仲良く小さいながらも1ホールのケーキを食べ尽くし。17時には家を出て人もまばらな大井競馬場のイルミネーションを見に行った。 そんな、なんて事ないクリスマスを、二人過ごす事ができた。
8 22/12/25(日)01:12:30 No.1007695070
なんだか今夜は良質なszsu怪文書をやけに見かけるな…
9 22/12/25(日)01:13:45 No.1007695518
ささやかな聖夜を分かち合う草鈴ありがたい…
10 22/12/25(日)01:13:58 No.1007695609
> そんな、なんて事ないクリスマスを、二人過ごす事ができた。 まで読んだ
11 22/12/25(日)01:14:02 No.1007695629
いい…
12 22/12/25(日)01:14:29 No.1007695786
>なんだか今夜は良質なszsu怪文書をやけに見かけるな… クリスマスだからね…