虹裏img歴史資料館

1 22/12/24(土)23:48:43 No.1007657648

ため息をついて空を仰ぐも、それで釣れれば苦労しない 人が全くいないのを確認してから出した４本の釣り竿。それらは三脚式のロッドスタンドに固定されて、それぞれ違う場所に仕掛けを投げ入れ放置してある 先端には鈴のついたクリップ。これが鳴った時が合図なのだけど……先ほどから、むなしく小風に揺れるだけ 「………『腰で釣れ』、かぁ」 この釣りは、よく『腰で釣れ』と言われることがある 魚の居る場所を探してあちらこちら足を使って駆けまわって釣るのではなく、一か所に腰を据えてじっと待ち、時合……魚の食い気が立つタイミングを待て、ということだ なんせ今日のお目当て、その気にならなければエサが目の前にあっても全く無反応な事も珍しくない、釣り人泣かせの超気分屋さんなのだから 実際投げ入れてすぐ食ってくる魚ではないので、投げ入れたエリアにターゲットが居ることを祈って待つしかない しかし、数時間も待たされればそれはもうげんなりもする。おまけにさっきから……… 「……これは」

2 22/12/24(土)23:48:55 No.1007657753

鈴が鳴っているが、この鳴り方は明らかにおかしい リールを巻いてくれば、何とも馴染みのある手ごたえ。これは、やはりか 「やあ、さっきぶり」 ぷくーっと膨らむ、かわいいお顔。餌釣りをしてれば準レギュラーのような存在、フグの御登場だった さっきからこれで４度目。この釣りは外道が釣れるのを楽しむものでもあるけど、フグばっかりは如何ともしがたい 丁寧に針を外してお帰り願う。もう釣られるんじゃないよ、と 「もー。せめて食べられるお魚だったらなぁ」 本でも持ってくればよかったなんて思いながら仕掛けを投げ直して腰掛ける と、その時だった 「………今の！！」

3 22/12/24(土)23:49:10 No.1007657866

リリン、と。確かに風とは違う鳴り方をした鈴。そこに目を移せば、確かに竿先が曲がっている フグの時とは違う重量感。これは、もしかするともしかするかもしれない そーっと、竿を手に取ってドラグを締めて深呼吸 この魚は、一気に喰らいついて丸のみにしてくる魚ではない。しっかりエサを飲み込んだタイミングで合わせなければすっぽぬけてしまう 深呼吸、一つ。二つ。三つ 「……せい！！」 糸を巻きながら竿を大きく立てると、ズンッとした強い手ごたえ。これは……掛かった！！ 想像していたよりも手ごたえが強い。ドラグを調節し、巻けるときに一気に巻き上げて、他の竿と絡まないように足元まで寄せてくる しばしの格闘のあと、その魚は……ついに、足元に姿を見せた

4 22/12/24(土)23:49:27 No.1007657996

「きた！！！立派なカレイ！！」 たも網で掬い上げて、ようやくの解放感で座り込んでしまう そう、本日の目的は冬の美味しいお魚、カレイ。しかもこれは随分立派なサイズだ 「えーと………惜しい！！４０センチはいかなかったかぁ」 ３９センチ。立派も立派だが、ちょっと悔しい だけどこれ一匹でもう大満足だ。リリースサイズじゃなければいいなーなんて思ってたら大金星 丁寧に締めて、血抜きをして。クーラーボックスに入れて、漏れるのは嘆きじゃなくて安堵のため息 「やー、よかったよかった。今日はもうこれで帰ろうかな」

5 22/12/24(土)23:49:43 No.1007658129

あんまりがっついた釣りは好きじゃないし、食べられる分だけを釣るのがマイポリシー その点もう一枚くらい釣れてくれれば嬉しいけど、この大きさに満足して今日はあがることにしようか ……と。竿を仕舞おうとした時 「えっ」 リリリリリンと鈴を鳴らしだす一本の竿。これが意味することは一つだけ 「ま、また釣れた！？」

6 22/12/24(土)23:49:55 No.1007658209

竿を手に持ちドラグを締めれば、その瞬間に感じる確かな重み。間違いない、しっかり針がかかってる だけど妙だ。先ほどのカレイの引きとはどこか違う、細かく暴れるような引き 少なくとも最近釣れた魚にこの引きをする魚は居なかった。なんだ、何を釣ってしまったのか 「………え」 上がってきたそれを見て………思わず、目を見開いた 「ええええーーーーーーー！！？」

7 22/12/24(土)23:50:13 No.1007658357

● 「ふー、さっぱりさっぱり」 帰寮してお風呂に入って、すっかりぬくぬくほこほこセイちゃんです やってきたのはいつもの様にお借りした調理場。エプロンをつけて、クーラーボックスを開ける まずはカレイを取り出す。うーん、やっぱり立派なサイズ。今日はこの子に会えただけでも釣りに出た甲斐があったなぁ ……そして、もう一匹。帰り際の奇襲攻撃を仕掛けてきたそのお魚を、まな板の上に 「……ホウボウなんて久々に釣ったなぁ」 ホウボウ。地域差もあるかもしれないけど、あまり食卓では馴染みがない魚かもしれない 赤みがかった魚体に、まるで蝶を思わせるカラフルな羽根のような巨大なヒレ。胴体の下には髭のような足のようななにかがちょこちょこと 一見するととても普通のお魚には見えない異形だけど、実はこれがまた美味しいんです 釣れた時は思わずびっくりしちゃったけど、落ち着いてしまえばほっくほく。ちょっと物足りなかったところに大収穫だ

8 22/12/24(土)23:51:30 No.1007658938

「さー、お料理の時間ですよっと」 まずはカレイからだ。まずは表面のウロコとぬめりをよーく取る。ここでぬめりが残ってしまうと後々味も悪く臭みが出たりするので丁寧に、丁寧に 金タワシを使うと楽なんだけど、今回は包丁で細かいどころまでしっかりと そしたら内臓を潰さないように丁寧に頭を落とす。あとは血合いをしっかり落として、これで下ごしらえはオッケー なんだけど、今回はちょっとカレイが大きいので半分にカット。一回で食べきるのは大きすぎるし……せっかくだ。またトレーナーさんに差し入れでもしようかな 「お次はホウボウ、と」

9 22/12/24(土)23:51:50 No.1007659097

ウロコを丁寧に落とすのは同じ。そしたらお腹を上にして、大きなヒレの付け根から包丁を入れる そうして頭を綺麗に落として、お腹を裂いて内臓を全部取り出して、血合いを綺麗に落とす。この血合いが残ってると臭さの原因になるからね そしたら三枚におろして、腹骨をすいて。あとは皮を剥がして、綺麗に水洗いして水気を取ればオッケー と、ここで大事なのは頭とか中骨は捨てちゃダメダメ。この後お役に立つのです 「まずは煮付けからかな」 醤油、料理酒、みりん。これらを火にかけてアルコールを飛ばす そこにショウガとネギを入れて、少ししたら水をちょい足し。そっとカレイの身を入れていく 今回は使わないけど、鷹の爪を一本入れるとピリ辛で大人向けの味付けになったりも そしたら落し蓋をして、煮えるまで次の作業にとりかかる

10 22/12/24(土)23:52:14 No.1007659281

「次はアラ汁だね。お塩、お塩」 料理酒少々と塩をホウボウのアラ……頭や中骨の部分に振り掛けて、少し置く その間にお湯を沸かしておいて、ニンジンと大根、ゴボウを切ってショウガを千切りに。 熱湯をそのアラに火傷しないように気を付けて……あちち。気を付けて、白くなったら流水でしっかり洗い流す。こうすることで劇的に臭みがなくなるのでアラ汁を作る時にはやっておきたい そしたらそれらを鍋に入れて、水と料理酒。中火で加熱しておいて そして沸騰したら弱火にしてアクを綺麗にとって。ここで妥協しちゃダメ。しっかり丁寧に弱火でコトコトしながらアクをとる。そしたら蓋してもう少し加熱 「おっと、煮付けはもういいかな」 煮付けのコンロの火を消して煮汁を味見。よしよし、セイちゃん上出来です で、しっかり火が通ってお出汁も出たところで、もう一度綺麗にアクを取ってからお味噌を溶かし入れて……

11 22/12/24(土)23:52:25 No.1007659360

「はい、完成。最後にお刺身を切って………」 これは特別やる事も無い。普通にカットしてお皿に盛りつけてオッケー。あ、食用菊があったので一個貰いました。やっぱり雰囲気出るもんね ご飯を盛って、席に着く 「なんだかすごく豪華になっちゃった」 本日のメニュー ご飯 カレイの煮付け ホウボウのお刺身 ホウボウのアラ汁

12 22/12/24(土)23:52:41 No.1007659464

ちょっとした漁師町の定食屋さんにも負けない、贅沢な食卓だ ではでは、両手を合わせまして 「いただきます」 最初に食べるのはまずお刺身。わさびを少し溶いたお醤油につけて……ぱくり ホウボウの持つ上品な、でも力強い甘さ。食感はしっかりしていて、脂も程よく乗った最高のお刺身 ちょっとお試しで小ネギを散らしたポン酢で食べればこれも大当たり。ホウボウの甘い油とポン酢の酸味が相性抜群だ 続いて、カレイの煮付け。箸を入れればほろりと骨から身が剥がれて……これに煮汁をつけて、と 「ご飯の上に、ワンバウンド……と」

13 22/12/24(土)23:52:51 No.1007659535

これが煮魚を食べる時の一番美味しい食べ方だと思う。こうすることでご飯にも煮汁が染みて、いくらでも食べられてしまう 味？もちろん間違いなし。ふわりと柔らかい食感の身に生姜の効いた甘辛い汁が染みて、それを白ご飯が受け止めてくれる 少し生姜多めにしたのがよかったかも。体の芯から温まる感じに思わず目を細めてしまう 「でも、体温めるならこれ、だよね」 アラ汁にちょっと七味を振り掛けて。ずずっとすすってみれば……ああ、幸せ ホウボウのアラからこれでもかというほどに出汁が出ていて、何とも芳醇な香りが鼻を抜けていく 中骨に残ってた身を食べるのもちょっと難しいけど楽しみだったり 大根がよくお出汁を吸ってくれている。やっぱりこういうアラ汁を作るときは大根は欠かせない 「ゴボウもありがたいよね。んでもって、これを………」

14 22/12/24(土)23:53:02 No.1007659630

……キング辺りに見られたら『はしたない！』って言われちゃいそうだからこっそりと アラ汁の残りを、ご飯の残りに注ぐ。お味噌汁とかでやるあれのアラ汁バージョン。美味しくないわけがない 限界まで魚のお出汁が染みた汁でご飯を掻っ込む。ああ、堪らない。多少お行儀が悪くても、美味しいんだから仕方ないじゃないか 「ふぅ……お腹いっぱい」 いつの間にかお皿も空に。すっかり夢中になって食べてしまった 少し残ってたカレイの身を名残惜しく食べて、箸を置く。これでおしまい、大満足 「苦戦させられたなぁ、今日も」

15 22/12/24(土)23:53:13 No.1007659730

釣りとはままならないものだ。釣れる予感はいともたやすく裏切られ、気を抜いていれば突然大物が来たりなんて日常茶飯事、数分のロスで群れを逃がしたりなんて当たり前 そんな気まぐれな海の顔とにらめっこして今日こそはと挑む。それがなかなか、どうにもこうにもやめられないのだ 今日だってあと少し諦めるのが早かったら丸坊主で終わっていた。こういう事があるからやめられない 「それじゃ、今日はこの辺で………」 予想外のゲストも現れての大賑わいで終わった今日の釣果に そして、美味しくいただいたお魚たちに感謝して 「………ごちそうさまでした」 また次の釣りも、楽しく美味しい一日になりますように

16 22/12/24(土)23:53:29 No.1007659855

おわり。セイちゃんにカレイも食べてもらった

17 22/12/24(土)23:58:25 No.1007662262

深夜にこれは何の拷問だ

18 22/12/25(日)00:00:19 No.1007663096

セイちゃんの釣り要素の解像度が高い文書かける人いたのか…

19 22/12/25(日)00:04:48 No.1007665418

二本目！？

20 22/12/25(日)00:05:07 No.1007665595

さっきはカワハギ釣ってなかった…？

21 22/12/25(日)00:06:24 No.1007666259

昨日はゴンズイ釣ってたような…

22 22/12/25(日)00:07:25 No.1007666803

>さっきはカワハギ釣ってなかった…？ ついカレイも釣って欲しくなったので

23 22/12/25(日)00:07:35 No.1007666898

釣り人じゃなきゃ書けねえわこれは…

24 22/12/25(日)00:12:23 No.1007669611

ダメだ腹が減った あら汁ご飯とか絶対美味しいじゃんか

25 22/12/25(日)00:17:11 No.1007672242

このセイちゃんは間違いなくいいお嫁になる

26 22/12/25(日)00:18:42 No.1007673212

ホウボウの刺し身はマジ美味いんだけど冬になると遠く深く行くから陸からだと中々釣れないんよなぁ…

27 22/12/25(日)00:21:39 No.1007674686

セイちゃん冬だしサンマみたいなサヨリ釣ってお造りと塩焼きにしよう

28 22/12/25(日)00:26:12 No.1007676833

冬だとグレやヒラメもいいな… コブダイは流石に学生のセイちゃんには装備が大変そうだしカサゴアイナメの根魚も美味しいし良さそう

29 22/12/25(日)00:27:21 No.1007677431

たまには日本海側での釣りも楽しいよ春でも秋でも寒さが辛くて痛いくらいだけど

30 22/12/25(日)00:36:32 No.1007681452

カレイの煮付けでご飯とか最高の贅沢だわ

31 22/12/25(日)00:40:47 No.1007683122

>冬だとグレやヒラメもいいな… >コブダイは流石に学生のセイちゃんには装備が大変そうだしカサゴアイナメの根魚も美味しいし良さそう コブダイはウマ娘パワーならなんとかなりそうだがマジで装備がな…