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22/12/16(金)17:05:46 「タル... のスレッド詳細

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22/12/16(金)17:05:46 No.1004632786

「タルトをもう一つ、いかがですか?」 「ありがとう、十分です。でも、お茶をもう一杯いただけるでしょうか」  白く華奢な指が魔法のように軽やかに動き、ティーポットとスプーンが踊って、やがて深い朱色の液体を満たしたカップが二つ、テーブルの上に並んだ。

1 22/12/16(金)17:06:05 No.1004632846

 それは一幅の絵画のような光景だった。浅い海ごしに青みをおびた午後の光がゆらめいて落ちかかる白い小さなティーテーブルに、人形のように美しい少女が二人。一人は金色の髪に赤いドレス、もう一人はプラチナの髪に黒いドレス。 「うふふ、枢機卿様をお招きできるなんて、私のお茶会に箔がつきますわ」  白い手袋をはめた手を口元へ当てて、黒いドレスの少女……エリー・クイックハンドは優雅に可愛らしく笑った。 「過分なお言葉ですが、残念ながら私のはただの役柄ですので」  赤いドレスの少女……アルマン枢機卿は紅茶を一口味わってから、慎み深く頭を下げる。エリーがすました顔で、つんと可愛らしい鼻を上へ向けた。 「大事なのは心ばえです。私だってただのバイオロイドですが、精神は本物の貴族のつもりでおりますわ」  アルマンはしずかに微笑み、もう一度カップを傾けて満足げな息をもらした。 「本当に美味しい……特別な茶葉なのですか?」 「いえ、カフェで使っている葉を分けていただいただけです。ジャワですわね」 「では淹れ方だけで、こうも変わるのですね」

2 22/12/16(金)17:06:19 No.1004632900

 おもちゃのように小さなタルトを、ナイフとフォークできれいに四等分して、小さな口元へ一つずつ運んでいくエリーの手元を、アルマンは眺める。 「エリーさんは本当に、手つきが素晴らしく繊細ですね」 「あら、ありがとうございます」エリーは嬉しそうに微笑んだ。「職掌柄、指先の器用さには自信がありますの」 「刺繍か、お菓子作りか、何か始められてみては? ここにはその道の専門家が色々いますし、みなさん優秀な弟子は歓迎なさると思いますよ」 「せっかくですが」エリーは微笑んだまま、首を振った。 「私はいずれ、民を守るためにこの身を捧げなくてはならない身分です。時間をかけて積み上げていくような趣味は、できるだけ持たないことにしておりますわ」

3 22/12/16(金)17:06:31 No.1004632943

「素敵な時間でした。また是非、お誘い下さい」  丁寧に礼を言ってエリーと別れたアルマンは、機嫌よく歌など口ずさみながらオルカの展望廊下を歩く。  北と南のふたつの海流が大陸棚でぶつかる、このあたりの海は生き物が豊かだ。窓のすぐそばまで無警戒に寄ってくる小魚たちを眺めながら散歩を楽しみ、最後にアルマンがそっと叩いたのは司令官室のドアだった。 「どうだった?」 「申し分のないティータイムでした。エリーさんのお茶会に招かれることは、そのうち私達にとってステータスの一つになるかもしれませんね」  にこやかに答えてから、司令官の表情を見てアルマンは小さく咳払いをし、真顔に戻った。 「陛下のご懸念通りです。エリーさんは今でも、いずれ命を捨てる前提で生きています」

4 22/12/16(金)17:06:50 No.1004633014

 エリー・クイックハンドは、先日の薔花の事件の際にUOU学園ヨコハマ校で復元された、080機関のバイオロイドである。富裕層の子女が通う学校に生徒として潜入し、彼らの身辺を警護しつつ、当時多発していた爆弾テロに対処するために作られた。  命の危険をともなう業務に従事するバイオロイドが、自分の命よりも業務の遂行を優先するようプログラムされるのはごく普通のことだ。しかしエリーのメンタルデザインは、爆弾解体に身を挺することを「貴族たる者の責任(ノブレス・オブリージュ)」という形で刷り込んだ点に特色があった。これにより、上流階級の子女としてふるまうための精神的バックボーンと、死に直面する苛酷な任務への献身性をいっぺんに獲得でき、さらに相乗効果で一方の側面が他方をより強固にする。一挙両得とはこのことである。  出身柄、悪趣味なメンタルデザインは見慣れているつもりのアルマンだが、エリーのプロフィールを初めて見た時には唸らされた。どこの企業にも、悪魔的な天才というのはいるものだ。

5 22/12/16(金)17:07:05 No.1004633071

 そしてこれが、司令官がここ数日頭を抱えている理由でもある。「爆弾処理に身を捧げるのが高貴な義務である」という残酷な嘘からエリーを解放するためには、「自分は貴族である」という虚構も否定せねばならない。それは、彼女のアイデンティティを否定することになる。 「やっぱりか……」 「それほど気にしなくとも大丈夫ではないですか?」額を押さえてうめく司令官に、アルマンは言ってみた。「今後エリーさんにそのような仕事をさせることはまずないのですし。オルカに長くいれば、いずれはわかってもらえるのでは?」 「『本来の使命』を果たす機会が長期間ないままだと、それはそれでストレスの元になるかもしれません」080機関の責任者として同席しているシラユリが、データパッドを繰りながら冷たく言った。「想定していた連続運用期間は長くて三年まで。記録の上では二年半が最長です。それを超えると彼女がどうなるかは、私達にもわかりません」 「随分とたちの悪い刷り込みをしたものですね」アルマンが咎めるような視線を向けると、シラユリは肩をすくめた。 「名にし負う伝説サイエンスの方にそんな評価をいただけて、光栄ですわ」

6 22/12/16(金)17:07:15 No.1004633103

「そういう問題じゃないんだ」皮肉の応酬をさえぎって、司令官が低い声で言った。「そんなひどい嘘を信じ込まされたままだなんて、それ自体が放っておけない」  本当に、この人はバイオロイドに対して誠実に向き合いすぎる。アルマンは聞こえないように嘆息した。そういう人だから皆が慕うのだと、わかってはいるけれど。 「エリー型はそれほど数も作られていないし、長期運用実績もないのでデータが少ないのです。元々、ケアを目的としたデータなど取られていませんし」シラユリはデータパッドを脇に置いた。「せっかくなのでこの機会に、深層心理などいろいろ知っておきたいですね。刷り込みはどこまで完全なのか。本当に死を恐れていないのか」 「心理分析装置にでもかけますか?」 「そんなことをしなくても、オルカにはいるじゃありませんか。感情を読める方が」

7 22/12/16(金)17:07:31 No.1004633168

長くなったので続き fu1731899.txt

8 22/12/16(金)17:26:54 No.1004638053

エリーちゃん蓮花イベで一回出たきりほんとに出番ないよな

9 22/12/16(金)17:38:29 No.1004641199

エリーちゃんの怪文書有り難い… ゲームの方も移管が落ち着いたらキャラの外伝をどんどん追加して行って欲しいね

10 22/12/16(金)17:48:40 No.1004644143

アルマン……やや邪悪!そういえばエンターヴィランだったな! あと「鉄虫との闘いで手柄を〜」の下りでどうにも渋い顔になっちゃってダメだった

11 22/12/16(金)17:49:54 No.1004644501

俺もゆっくりお茶してぇな……

12 22/12/16(金)18:44:31 No.1004660754

エリーちゃんは設定でオチてるから話広げられないって思ってたけどすごい面白い…

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