虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

1 22/12/14(水)23:11:41 No.1004115176

場面は変わって、今度は初デートの日。ホワイトクリスマスだった。急に変わりすぎだけど、夢ってそんなもん。 あっという間に冷えきったあたしの手を暖めてくれたのはアンタの手だったね。大きくて、たくましい手に包まれて、幸せだった。 ──胸が痛い。 遅くなって来たから学園に帰ろうとした時、頭の上に大きな影が出てきた。雪の重みで落ちてきた何かの看板だった。感じたのは大きな音と悲鳴、そして痛み。 気付けばあたしの目線は空からじゃなくて、自分の目線になっている。一面暗くて、狭くて冷たい場所。 でも生暖かくて、ぬるっとした何かがそこにあった。自分の胸に突き刺さった看板の一部を伝って地面に落ちる血だと気付いたのは、どれくらい経った時だったかな。

2 22/12/14(水)23:12:00 No.1004115315

◆ 「……ぅ」 目を覚ます。 今めっちゃ寝覚めが悪くなるような夢を見た気がするけど……バカだからかもう忘れちゃった。胸がドキドキしていて、ズキズキするから、辛い夢だったのは間違いないんだろうけど。 「あ、おはようトーセンジョーダンさん。起こしちゃいました？」 眠たい目をこすって体を起こすと、もうすっかり見慣れた病室だった。点滴を付け替えてたナースのお姉さんの顔も、もう見慣れちゃった。 「おはよーございます。そんなんじゃないんで、大丈夫です」 「良かった。もう少しで朝食持ってきますからね」 「っす～」

3 22/12/14(水)23:12:25 No.1004115466

そう。あたしは現在入院中のリハビリ生活中。 去年末のクリスマスにトレーナーとデートしてた時、落っこちてきた看板にトレーナーと一緒に巻き込まれて、あたしは死んだ。ゴメ、ちょい大げさかもしんなかったけど、マジで心臓止まってたって言うか、心臓に看板の一部が刺さってほぼ死んでる状態だったみたい。 でもあたしらウマ娘は並の人よりも心臓とか肺が強いから、手術するまではギリもってたらしい。そんで今はどうなのかって言うと……心臓を移植してもらった。 ウマ娘の心臓じゃないけど都合良く心臓の提供があって、それを移植したんだって。大人の男の人の心臓だけど奇跡的に拒絶反応もなし。手術から3ヶ月経つけど、もうすっかり体に馴染んで短距離位なら前と同じくらいのペースで走れるようになった。もちろん時々痛むのはある……でもリハビリを続けていればもう数ヵ月でレース復帰も問題ないって。 「マジで運が良かったわあたし。この心臓くれた人には感謝しかねー」

4 22/12/14(水)23:12:42 No.1004115594

あたしの為に用意されてたみたいなこの心臓。くれたお礼がしたくて提供者の事を訊いたけど、医者のセンセーは「ドナーがトクメー希望なので教えられません」って言われた。知られたくないって人が居るんだね。 「あ、そうだ。トレーナーに写メ送んないと」 そうそう。肝心なあたしのトレーナーだけど、アイツはあたしとは違う病室に運ばれて、そこで今でも入院中らしい。結構重傷だったから、今でも寝たきりなんだって。 だからあたしは早く元気になって会いに行くつもり。どこに入院してるかトレーナー教えてくれないけど……トレーナーの親とかに聞けば一発っしょ。 てな訳で、カワイイメイクして、ネイルキメて、自撮り。そんでトレーナーに送信。恋人になれたばっかりなのにお互い会えないし、せめてこうしてLANEでのやり取りはしときたいじゃん？ と、すぐに返信が来た。

5 22/12/14(水)23:13:03 No.1004115722

『おはようジョーダン。今日も元気そうでなにより。リハビリは順調かい？』 『バッチリ～。てかトレーナーレス早すぎ。入院中なのに仕事でもしてんの？』 『ヒミツ。さて、心臓は無事馴染んだみたいで良かったよ。俺はまだ動けなくて悪いね……けど、ちゃんとリハビリとは別の復帰用トレーニングメニューは作ってあるから安心して。送るから、俺が居なくてもちゃんと続けてくれよ』 トレーナーと会えないのはさみしいけど、こうしてメッセするし、電話だってする。だからまだ………折角だし電話しよっかな。 『ねぇ、今から電話してもいい？』 『良いよ』 その返事が来てすぐにあたしは電話をかける。コール数回でトレーナーの声がした。

6 22/12/14(水)23:13:25 No.1004115879

『もしもし？』 「っす～。元気してるトレーナー？」 『あぁ。元気だとも。君には苦労をかけてすまないね……』 「いいって。それより、アンタの病院ってどこなのさ？ いい加減教えろってー」 『ダメ』 「何で～」 『ダメなものはダメ』 コンコン。 ドアがノックされて、返事をすると聞き慣れた声の主が入ってきた。緑色がトレードマークのたづなさんだ。 「おはようございます、トーセンジョーダンさん。調子は──っと、すみません電話中でしたか？」 「おはよーございます。いろいろ大丈夫でっす」 まだトレーナーとは通話中だったけど丁度良いかも。たづなさんからトレーナーに説得してもらおっかな。もしくはたづなさんにトレーナーの入院してる所訊くとか。

7 22/12/14(水)23:13:39 No.1004115968

「そうだ。たづなさん、トレーナーがあたしに入院してる場所教えてくれなくて困ってんですけど、説得してもらえないですか？」 「え？ トーセンジョーダンさんの、トレーナーさんですか……？ 一緒に事故に遇われた……？」 「？ そうですけど……。あ、もしもしトレーナー？ たづなさんに変っから」 たづなさんにスマホを渡す。なんでか変な顔しながらそれを受け取ったたづなさんは画面を見てるだけで何も話そうとしない。スピーカーで話してたからそのまま話せば良いだけなんだけど。 「…………すみませんトーセンジョーダンさん。貴女のトレーナーさんですが──」 「ん？」 「その…………既に、亡くなってます」 「…………………は？」 急にたづなさんなに言って……？

8 22/12/14(水)23:13:54 No.1004116067

「トレーナーさんの最期のお願いで貴女が無事退院できるまで黙っている予定でしたが……今のままでは貴女が“戻れなくなる”気がして」 「ウ、ソ……ウソだ！ ウソだッ！！ だってトレーナーと毎日メッセしてるし今も電話だって──！」 「……いえ、その……」 たづなさんからスマホを奪い返して画面を見ると、通話相手は確かにあたしのトレーナーであることは間違いない。今だってトレーナーの声が聞こえ── ピーーーー。 スマホから聞こえてきたのは、耳障りな電子音だけだった。 「なに……これ………いや、でもメッセ！」 通話を切ってLANEのメッセージのやり取りを開く。毎日やり取りしてるトレーナーの生きている証拠を。でも……。 「──なん、でよ……」

9 22/12/14(水)23:14:12 No.1004116212

トレーナーと毎日やり取りしていた。確かにしてたハズなのに……今見たらあたしがトレーナーにメッセを送ってるだけで、トレーナーからの返事は一言も帰ってきてなかった。一件も既読になってない。あたしの独り言だった。 今までの声は、言葉はみんな……あたしのモウソウ……？ 「……トーセンジョーダンさん。貴女の心臓は、トレーナーさんの心臓です……。既にドナー登録していた彼が、搬送先の病院で脳死になる直前に貴女に心臓をと──」 「っ──は、かはっ……！」 信じられない。胸が痛くなってうずくまる。涙で何も見えなくなって、声が抑えられない。まるであたしの新しい心臓……トレーナーの心臓が夢ではなく現実だとあたしに教えるみたいに強く脈打って痛みを感じさせる。 何度もLANEを見直すけど、やっぱり事故からトレーナーからは一言も帰ってきていない。

10 22/12/14(水)23:14:23 No.1004116300

でも……ただ1通。LANEで死んでいるハズのトレーナーから送られてきた『復帰用トレーニングメニュー』のファイルが、トレーナーからあたしに最期の別れを告げているような気がした……。 「あ、ああ……ッ！ アアァぁぁああああッ！！」

11 22/12/14(水)23:15:19 No.1004116660

曇らせ最高！ 曇らせ最高！ 推しの曇らせ最高だと言うんだ「」

12 22/12/14(水)23:15:56 No.1004116922

なんでかジョーダンはいつも酷い目に遭ってる気がする

13 22/12/14(水)23:16:35 No.1004117167

またジョーダンが曇らされて折られるぞー！

14 22/12/14(水)23:16:58 No.1004117314

救いはないのですかぁ～