22/12/10(土)22:19:57 「グラ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1670678397442.png 22/12/10(土)22:19:57 No.1002684213
「グラス、後は外で走って終わりにしよう。軽く流す程度でいいぞ」 「はい、では行ってまいります」 トレーナーさんから指示を受け取り、私は駆け出した。 12月に入り、気温はめっきり下がった。肌を刺すようにも感じる寒さだが、火照った身には心地よく思える。 先ほどトレーナーさんから指示を受けたばかりに関わらず、近走の不甲斐ない結果から、思わず脚に力が入る。 朝日杯で勝利を収めたのち、クラシックに入ってすぐに脚を悪くした私は、春のシーズンでは一度も出走することができなかった。
1 22/12/10(土)22:20:42 No.1002684548
秋に入り、10月、11月とレースに出るも、上位人気に押されているにも関わらず入着すら適わなかった。 まだ走れる状況ではないと判断したのか、トレーナーさんは出走予定であったジャパンカップを回避、年末の有馬記念に向けて調整するように、と私に告げた。 トレーナーさんは、今は体を作ることよりも、病み上がりであることも考慮し、精神面を整えることを重視し、軽めのトレーニングメニューを組むようにしているらしい。 だが、私自身は次のレースで勝つことへの意識が強くなり、より多くトレーニングをこなしたいと考えていた。 ウマ娘にとって貴重な、クラシックの春を丸々逃したアドバンテージは大きい。同期のライバルたちは、そのたった数か月の間に多くの経験を積んだ。 一刻も早く、遅れを取り戻さねば。頭の中の靄を振り払うように、私は地面を強く蹴った。
2 22/12/10(土)22:21:08 No.1002684703
ふと立ち止まると、トレセンから少し離れた河川敷にいることに気が付いた。軽く流すようにと言われていたのに、思いのほか遠くへ来てしまったらしい。 戻るのが遅くなると、トレーナーさんが心配するかもしれない。引き返そうとしたとき、川の土手にトレセンのジャージを着た、芦毛のウマ娘がいるのを見かけた。 走っている最中に立ち止まったり、また急に走り出したり、トレーニングしているにしても何やら落ち着かない様子だ。 少し不思議に思った私は、土手を降りて彼女に近づいて行った。 「オグリ先輩、こんにちは。こんなところでトレーニングですか?」
3 22/12/10(土)22:21:38 No.1002684913
「ん?グラスか。トレーニングのために来たわけじゃないんだが……どうにも落ち着かなくて、少し走っていたんだ」 「落ち着かない……何か悩みでもあるのですか?よければ、お聞かせ願えませんか?」 「悩みというわけじゃないんだが……実は今夜、数日かけて作っていたどて煮が完成するんだ」 「どて煮……ですか?」 「ああ、だからなるべくおいしく食べられるようにと、お腹を空かすために走っていたんだが、気が付いたら川の土手まで来てしまっていて……土手のせいで、余計にどて煮のことを考えてしまって、いてもたってもいられないんだ!ああ……夜が待ちきれない!」 「はあ……そうですか。それは楽しみですね」 どうやら、余計なお世話だったらしい。ここは話を切り上げて、トレセンに戻った方が良いだろう。
4 22/12/10(土)22:22:08 No.1002685125
「ところで、グラスはどうしたんだ?キミの方こそ、何か悩みがあるんじゃないか?」 「えっ?私が……ですか?」 「いや、何やら表情が暗い気がしたんだが……私の話を聞いてもらったお礼に、今度はグラスの話を聞かせてくれないか?」 「そうですね……では、お言葉に甘えて、少しお話させていただきますね」 そして、私はここ最近の自分の話を始めた。 クラシックを棒に振ったこと、近走で振るわなかったこと、そして、拭えない焦りのこと。 「私のライバルたちは、この1年で大きく成長しました。G1に出走し、勝ち、あるいは負け、競い合い……そんな中、私だけが何もできなかったことが、悔しくて……。あ、申し訳ありません、長々と話してしまって……」 「ふむ、なるほど……」 しばらくの沈黙ののち、オグリ先輩は再び口を開いた。
5 22/12/10(土)22:22:46 No.1002685375
「グラス、キミはどて煮の作り方を知っているか?」 「え?いえ、詳しくは存じ上げませんが……」 「簡単に言えば、どて煮は、具材のもつや牛すじ、こんにゃくなどを八丁味噌がベースの出汁で煮込んだものなんだが……ただ煮込んだだけでは完成じゃないんだ」 「確か、数日かけて作っているとおっしゃっていましたが……」 「そう、まず最初に弱火から中火でじっくり煮込むんだ。八丁味噌は白みそと違って、煮詰めれば煮詰めるほどおいしくなる。2,3時間したら火を止めて休ませて……次の日に水を加えてまた煮込む。そしてまた休ませる……これを繰り返すんだ」 「はあ、そうなんですか……」 「この休ませる工程もとても大事なんだ!火を止めている間に具材に味噌が染み込んで……やわらかくて出汁がたっぷり染み込んだおいしいどて煮に育っていく。だから、どて煮を作るときは長い時間をかけてじっくり作る必要があるんだ」 「とってもおいしそうですね。私も、思わずお腹が空いてきちゃいました」
6 22/12/10(土)22:23:09 No.1002685538
「ああ、グラスも今夜食べに……おっと、そうじゃなかったな。私が言いたかったのは……グラス、キミはクラシックの春を無駄に過ごしたと言っていたな。あれ、本当にそうなんだろうか?」 「えっ?」 「私も、クラシックレースには出られなかった。次の年にはケガをして、春の間は走れなかった。だけど、走りたいレースに出られなかったときも、怪我で動けないときも、リハビリをしているときも、故郷のみんなやファンの期待に応えたいという気持ちや、ライバルたちに勝ちたいという思いはずっと持ち続けていた。だからずっと頑張れたんだ。グラス、キミも同じだったんじゃないか?」 「それは……確かに、そう思います」 「クラシックで走ったウマ娘は、多くの経験をしたかもしれない。でも、休んだりリハビリをしていたことも、私の、グラスの経験になったはずだ。どて煮に味が染み込むように、じっくりと育てた思いを育てていた時間は、無駄じゃないと私は思う」 「オグリ先輩……」 「グラス、キミが今すべきことは、いきなり強火にしてどて煮を焦げ付かせることじゃない、弱火でじっくり仕上げて、おいしいどて煮をみんなに食べさせることなんだ」
7 22/12/10(土)22:23:40 No.1002685764
そう語ったオグリ先輩の瞳の奥は、静かに燃えているように見えた。 かつての自分を重ねての想いか、レースにかける情熱か。 その目の輝きに、私は多くの人々の期待に応えた『怪物』の姿を見た。 「うーん……なんだかこんがらがってしまったな。これで私の考えは通じただろうか?」 「ふふっ……ありがとうございます、オグリ先輩。あなたの気持ちは、しかと受け止めました。これからは、焦らずじっくりと……来るべき日の完成のために、精進してまいりますね」 「そうか……分かってくれたならよかった。……そろそろ日が落ちそうだし、トレセンに戻ろう。グラス、よかったらキミもどて煮を食べに来ないか?」 「よろしいのですか?では、私もご相反に預からせていただきますね。どて煮、まだいただいたことがなかったので気になっていたんです」 「そうなのか?なら今日は楽しみにしておいてくれ!寒い日に食べるどて煮は絶品だ!ご飯に乗せたどて飯もおいしいんだ!よし、早速戻ろう!」
8 22/12/10(土)22:24:08 No.1002685952
そう言うやいなや、オグリ先輩は駆け出した。追いかけるように私も駆け出し、連れ立って走っていく。 風は冷たく、冷え切った体を切り裂く。この後に食べるどて煮は、さぞや絶品であろう。 くすぶり続けた日々は長く、私の心を焦らし続けた。 だが、まだ火を絶やすわけにはいかない。じわり、じわりと染み込んだ思いを、今こそ完成させるのだ。 赤くなり始めた寒空の下、走り続ける私は、少しずつ熱を帯び始めていた。 「そういえば、グラスはここ最近トレーニングを頑張っていたようだが、夜はうまく休めているのか?」 「夜ですか……いえ、実は、考え込むことも多くてなかなか寝付けなくて……」
9 22/12/10(土)22:24:38 No.1002686167
「それはよくないな。快眠は体の基本だ。よし、じゃあ今夜からこいつを使ってみるといい」 「これは……抱き枕、ですか?少し不思議な形をしていますが……」 「ああ、これはYogibo Roll Smileというんだ!少しカーブしている分、体にフィットして包み込まれるように眠ることができるんだ」 Yogibo Roll Smileは、従来のYogibo Rollシリーズと比べ、カーブがあることが特徴の商品です。 カーブによって、直線では難しかったフィット感を実現。体をぴったり包み込み、より抱きしめやすくなりました。 もちろん他のYogiboと合わせることも可能。抱き枕としてのみではなく、背もたれなどとしても。あなたの生活にぴったりとフィットします。